黒人とヒスパニックのたくましさ

6月7日日曜日

昨晩から、何故かヒップホップの映画を立て続けに二本観てしまっていた。 

2パックのことを描いた「オールアイズオンミ―(ALL EYEZ ON ME) 」と、NWAの物語「ストレートアウタコンプトン」だ。 

俺は、ヒップホップをほとんど聴かない人間で、実はエミネムすらも殆ど聴いたことがない。 メタルとハードコアが好きな人間だったので、アンスラックスと一緒にコラボしたり、レイジアゲインストマシンが影響を受けたというPublic Enemyや、エアロスミスとコラボしたRUN DMC、そして日本のヒップホップで言ったら、右翼思想を前面的に出していたK-dubシャインくらいしか本当に聴いたことがなかったのだ。

言うまでも無く、ヒップホップは米国の黒人社会の中から生まれた。

今まで黒人社会についてあまり興味をもってこなかった俺にとっては、ひと昔の米国で黒人がどのように扱われていたのか分かって、とても新鮮な映画だった。

それに、映画で描かれている白人の警察の黒人に対する横暴なども、現在世界中で起こっている「Black Lives Matter」運動とリンクしていて興味深かった。


ヒップホップは、現在世界を席巻している。 

そして、ラップは基本的に、抑圧されている人達を惹き付け、マイノリティが自分たちの声を外に届けるための手段にもなっている。

皮肉にも、もし米国で黒人が差別されていなかったら、このような音楽が生まれることはなかっただろう。

差別されることで内側にたまったエネルギーが、80年代90年代において、爆発した。 

元をたどると公民権運動やブラックパンサーの活動が黒人社会に少しづつ戦う自信を与えたのではないかと思われるが、アメリカの建国以前から奴隷として扱われてきた彼らの面目躍如というところだろう。 


文化というのは面白い。 もし、徹底的に平等が実現されている社会では、エネルギーも平坦化されてしまう。 

大きな不満がない社会、合理的で矛盾が徹底的に少ない社会では、不満が少ない故に、反発するエネルギーすら起こりようがない。


ノルウェーやスウェーデン、フィンランドが、高福祉で裕福な国だということで理想の国として挙げられることがある。 俺には仲の良いフィンランド人の友人がいるのでよく聞くが、フィンランドには半年働いて残りの半年は政府から失業保険もらいながら東南アジアを旅するような若者が沢山いるらしい。 

羨ましいといえば羨ましいが、甘えているといえば甘えているといえる。 

そして、こういう北欧の国は何か世界を変えるような文化や運動を生み出したかといえば、そんなことはない。

北欧で有名なものといへば、家具とムーミンくらいだろうか。 

それはそれで、幸せで結構な国だと思う。 


ただ、作用反作用の法則で、アメリカの黒人は「差別」と「不平等」を、世界を変えるようなカルチャーにまで昇華させた。 

大金を稼ぐ者も出てきたし、逆に白人がブラックカルチャーに羨望を抱くようにもなった。

普段から暴力に曝される彼らは粗暴で、教育も満足に受けられないから教養も無く、故に専ら彼らの興味は金と女に向かっていく。

俺からしたら、教養がないから多くの成功者は破滅するのだろうと思っているが、そんなタフな彼らには逞しい力強さを感じ、映画を観ながら何度羨ましいと思ったかしれない。


映画の中で描かれる、権力の傘の下でしか威張れない白人と、不当な暴力に耐えながらものし上がっていく黒人の対比は考えさせられるものがあった。

集団で黒人を取り囲み不当な取り締まりをする白人警察の姿は、日本の警察や、浮薄になった日本のインテリや、金だけもって偉そうにしている日本人の姿とダブってみえた。

徹底的にアメリカやソ連と戦ったようなときに見せたような気魄や闘魂は、戦後日本人は失った。 

失わさせられたといって良いのかもしれないが、貧乏だった時の日本人の逞しさは、もう遠い過去の昔の話である。 

治安が全面的に良くなったので、米国の黒人社会のような粗暴さはもう日本には存在しない。 

それが故に、日本人は弱いのだ。 

だが何もこれは日本だけではない。世界で、先進国の出生率はどんどん下がっており、そこに住む男性の精子の数もどんどん少なくなっていっている、というニュースを読んだことがある。 

俺にはドイツ人の友人がいるが、かなりハンサムなのにそいつは23歳まで童貞だったといっていた。 

全体的に白人の男も、日本人と比べても逞しさを感じることはなく、奥手の人間もずいぶん多いのだと思った。

何も、男性の草食化は日本だけではないのだ。


それとは逆に、黒人とヒスパニックの男性では精子の現象は見られないらしい。 

恐らく、ぬくぬくと育っていないからだと思う。


昔、古代ローマ帝国においても、ローマ人は子供を産まなくなったらしい。

逆に、外国人が軍隊を構成したり農業に従事するようになって、ローマは滅んだ。

中国の歴史も、成熟し、洗練に向かった王朝が周辺の蛮族に苦しめられ、そして国が崩壊するということの繰り返しである。

ぬくぬくと育った人間は弱い。 

ただ、黒人からしたらぬくぬくと暮らしたいと思うだろう。 だがぬくぬくと育ってしまったら、今度は人を動かすようなヒップホップを生み出すことも難しくなると思う。

世界はあらゆることに二面性を含むものなのだなと、映画を観ながら色々と考えさせられるものがあった。



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