ふたたびパクセロイ、もしくはキムジョウンウン
鏡を見たら、そこには良く言えばパクセロイ、冷静に見たら金正恩が映っていた。衝撃のヘアカットから3カ月。また、髪を切る日が来た。
前回のヘアカットは、幸枝さんの実家に里帰り中のことだった。初めての美容室、髪型を指定するのが苦手なぼくは「短くしてください、後はおまかせします」とだけ告げて、いつもどおり後は天命に委ねることにした。結果、気づくと想像以上に、記憶にないくらい髪が短くなったぼくがいた。
当時は慣れない髪型にちょっと鬱々とした気分だった。
ただ、今にして思うとあれはあれで悪くなかった気がする。刈り上げられたサイドはとてもさっぱりしていて、トップに残ったちょっぴり長めの髪は見ようによっては悪くなかった。
「うん、今回もあれくらい短くしよう」
前回並みに短くすることを決めたぼくは、今度は少し髪型を指定してみることにした。
スマホで「40代、髪型」と検索する。まだぎり30代だが、どちらかと言うと40代の髪型の方がいい気がしたのだ。ぼくの変な自意識だ。
「これはかっこいい」と思える写真を見つける。これならセロイでもジョンウンでもなく、ナイスミドルだ。一応、確認で幸枝さんにLINEを送る。
「このモデルさんがかっこ良すぎるけど、髪型こんな感じにしようと思ってます」
「髪型いいんじゃない?」
了承を得た。
「こういうのもあったよ?」
内面を引き出すヘアデザイン。いや、今回はこれじゃない。
スマホですぐにナイスミドルのページを開けるようにして、美幌のいつもの美容室へ向かう。坂を降りたらすぐだ。
「お久しぶりです」
「今回は、どんな感じにしますか?」
「実は今回は、写真を持ってきました」
「なるほど、だいぶ短くする感じですね」
「はい、お願いします」
そして、また天命に委ねる。ヘアカット中はなるべく鏡を見ない。それがぼくの流儀だ。というより、どうなるかが怖くて鏡を見ることなんてできない。
バサバサ、ヴィーン、シャカシャカ。
そして、鏡を渡される。
「こういう感じです」
「はい、ありがとうございます」
そこには、ふたたびパクセロイもしくはキムジョンウンが映っていた。ただ、その表情には、前より少しの自信と、少しの納得があった。
「うん、まぁ悪くないんじゃないかな」
こうして、今度は美幌にパクセロイとキムジョンウンの中間よりジョンウン寄りの髪型の男が誕生したのだった。大事なのは自分が納得できているかなのだ。
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