パクセロイもしくはキムジョンウン
だいぶ髪が伸びてきた。
現在、妻の実家に帰省中のため、いつもの美容室にはいけない。妻と長男のつむぎが切ってもらったところにぼくも行くことにした。
基本的にヘアカットが苦手だ。とにかく注文が苦手だ。「芸能人の〇〇みたいに」とか、「サイドは〜でトップは〜な感じ」とか指定できればいいのだが、「ぼくがそんなことを言うなんて厚かましいのでは?」と自意識が邪魔をする。
いつもの美容室であれば、「前回と同じ感じで」で済ませるところだが、初めて行くところではそうもいかない。
あれこれと思いあぐねた末、結果的に、「短くしてください、後はおまかせします」となる。
今日ももちろんそうだった。
「さぁ、後は天命を待とう」と全く人事を尽くさずに、あっという間に全てを美容師さんに委ね、持ち込んだ本に目を落とす。
サッサッと軽快にハサミが動き、バサバサと髪が落ちていく。
「今回はかなり短くしてくれそうだな」と心のなかで思いつつ、本を読み進める。
ヴィーンとバリカンが登場する。そして側頭部をこれでもかというくらい剃り上げているようだ。
「お、お、今日はものすごく短くなりそうだな・・・」若干動揺しつつも、本を読む。もはや鏡を見るのも怖くなっている。
「それじゃぁ、ここでシャンプーしますね」
「はい、お願いします」
丁寧に髪を洗ってもらう。心地よい。
そして、またもといた席に戻る。そのとき、ちらっと鏡が目に入る。
「は、短い・・・」
またハサミで少し整えてもらい、少しセットしてもらいヘアカット終了。手鏡を受け取り、席の前の大きな鏡と手鏡でヘアスタイルを確認する。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です。ありがとうございます」
これが大丈夫なのかどうかは正直わからない。一つ分かるのは今までで一番、髪が短くなった男がそこにいるということだ。それにしても、なぜ美容師さんはいつも「大丈夫ですか?」と聞くのだろう。どちらかというと「大丈夫ですよ!」と自信を持って語りかけて欲しいものだ。
昨晩降った雪がまだうっすらと残る八戸の街を、頭がスースーするぼくは早足で歩いていく。しばらく行ったところで、ガラスに反射している自分の姿を横目で捉える。
「これはあれだな、梨泰院クラスのパクセロイだな」
パクセロイの髪型がかっこよかったかは置いといて、お気に入りのドラマの主人公を想像して少し気分が良くなる。
さらに、家に向かって歩いているうちに、ふと思い直す。
「いや、待てよ、これはパクセロイではなく、キム・ジョンウンかもしれない・・・」
たまらず、スマホでキム・ジョンウンの画像を検索する。
ついでに、妻にLINEを送る。
「めっちゃ短くなった!パクセロイみたい。いやどちらかと言うと、キム・ジョンウンかもしれない」
返事が来る。
「楽しみー」
ドキドキしながら帰宅。
「ただいま」
玄関前で何やら作業をしていた妻。
「かなり短くなった」
「そうねぇ、たしかに短くなったねぇ。でもいいんじゃないどうせまた伸びるし」
うん、この反応は・・・。
こうして、12月16日金曜日、冷え込む八戸に、パクセロイとキム・ジョンウンの中間よりだいぶジョンウン寄りの髪型の男が誕生したのだった。
保育園のお迎え。いつもどおり駆け寄ってくるつむぎを抱き上げる。
「つむ、ダディめっちゃ髪短くなったでしょ?」
「うん、かっこいい!」
ありがとう、そう言ってくれるのは君だけだよ。
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