碧空に嘘はつけない
3回目のデートで深大寺に来た。
木々の間を抜けると、お蕎麦屋さんやお茶屋さんで賑わう参道に出た。都内だけどまるで小旅行に来たみたい。
お参りをしているとき、田中さんを横目で見た。目を閉じて熱心に祈っている。ちょっと意外。
田中さんは口数が少なくてつまらない人だ。顔も別にいいわけじゃないし、無愛想だし、ついでに言うと背が低い。告白されてOKしたのは、29歳という焦りからだと思う。
秋晴れが気持ちいいので、屋外のテーブルでお蕎麦を食べる。
「あの、言おうと思ってたんですけど」
田中さんが緊張した面持ちで言う。
まさか、もうプロポーズ?
「僕のことが好きじゃなかったら、別れていいですからね」
は?
「僕は一緒にいたいですけど、無理させるのは忍びないので……」
たしかに、田中さんといてもちっとも楽しくない。
だけど。
「好きじゃないなんて、言ってないです」
秋晴れの空はひとつの嘘も許さないくらい青いから、本当のことを言った。
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