晴れ女
駅を出ると、旅先の空は絵に描いたように晴れていた。曇天が多いと聞いていたから意外だ。
「私、晴れ女なんです」
担当編集のSさんが嬉しそうに言った。
「仮に僕が雨男だとしたら、ここには晴れ女と雨男が同時に存在します。その場合、天気はどうなるんですか?」
「そりゃあ、力の強いほうが勝ちます」
小さな子どもみたいな、単純明快な答えだ。
Sさんは腕時計を見る。
「取材までまだ時間がありますね。せっかく気持ちいいお天気だし、少し歩きませんか?」
知らない街の、寂れた駅前商店街を歩く。知らない人たちの暮らしを感じるのは、興味深いけれど少しだけ落ち着かない。
一方Sさんは、「お団子屋さん」「金物屋さん」などと、目に留まるものを声にしながら歩いている。
彼女の屈託なさは、まるでこの青空みたいだ。
……なんて凡庸な比喩を思いつく。作中では絶対に使わないのに。
現実にしみじみ思うことは、案外とても凡庸なんだ。
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