誰にも邪魔されない、幸せな時間
「ここ、電波入らないんだね」
旅館の浴衣に着替えた恋人が、スマホを見ながら言う。自分のスマホを見ると、たしかに圏外だった。
「山奥だもんな」
「大丈夫?」
いつもは休暇中も仕事のメールを返す。でも……。
「うん、大丈夫だよ」
どうせ圏外だからと、スマホの電源を切った。
恋人と大浴場へ行き、「じゃあ1時間後ね」と言って別れる。
温泉に肩まで浸かると、温かさで体がほぐれていく。今進めているプロジェクトの懸案事項まで、お湯に溶けていくようだ。露天風呂から臨む、月明かりに照らされた紅葉が美しい。
部屋に戻ると、彩り豊かな料理が運ばれてきた。
恋人は料理の写真を撮り、「そういえば電波ないんだった」と言う。
「インスタに載せられないな」
「ふたりじめだね」
ふたり、瓶のビールを注ぎ合い、手の込んだ料理に舌鼓を打つ。恋人は美味しいものを食べると目を丸くするのが可愛い。
誰にも邪魔されない、幸せな時間。
たまにはオフラインもいいな。
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