コピーライター・阿部広太郎さんと、会話での「質問力」のたいせつさを再確認した
「吉田流の会話術を、コミュニケーションのプロたちはどう分析するのか?」
こんにちは。ニッポン放送・吉田ルーム所属の田中嘉人です。
2020年8月22日、吉田アナが新刊「元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書」を出版するにあたり、ふとこんな疑問が浮かびました。
書籍で紹介されている会話術は、基本的には吉田アナの実体験をベースに、アドラー心理学の要素を取り入れながら積み重ねてきたもの。吉田アナのオリジナルです。
そこで、第三者の客観的な意見も聞くために、吉田アナとは全く別の分野で活躍中のコミュニケーションのプロをお招きし、対談の場を設けさせていただきました。
初回の対談パートナーは、電通のコピーライターとして働きながら、作詞、映画プロデュースなどを手がけ、さらには「コピーライターでなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術」(ダイヤモンド社)の著者でもある阿部広太郎さん。
言葉のプロである阿部さんとコミュニケーションについて意見を交わしました。
話題は書籍づくりから、SNS時代のトレンドのつくり方、そしてお互いのコミュニケーション観にまで及びました。
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コピーライターが秘密にしたい書籍タイトルの付け方
阿部広太郎さん
阿部さん:
まず、吉田さんが「元コミュ障」だなんて想像がつかないですね。
吉田:
根はガチヲタですからね。外出しなくても生きていける。だから、同じアナウンサーという職業の人たちにあんまりシンパシーがないんですよ。女子アナは複雑な理由があって好きじゃないし(笑)。
阿部さん:
そうなんですか? どうしてだろう、気になります。
吉田:
ま、その辺は、機会があったら喋ります。余談はこの辺にして、本題に入りますか(笑)。すでに読んでくださったそうで、ありがとうございます。いかがでしたか?
阿部さん:
テーマである「話し方・聞き方」の技が本文中で実践されているのが「なるほど!」と思いました。そこに気づいて読むとおもしろさが倍増するし、すぐに会話が上達するイメージが湧きました。個人的には「コミュニケーションは勇気」「リアクションは愛」という言葉にグッときましたね。
その上で質問なのですが、この「元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書」というタイトルはどうやって決まったんですか?
吉田:
出版社のアスコムにお任せですね。私はタイトルに全然こだわりがないので。
阿部さん:
え!? それはなぜですか?
吉田:
タイトルは自分でつけるものではないと思っているからです。アイデアとして出た案は、全部正解だと思っているんです。ただ、自分で自分のことはわからないので、客観的視点をもつ編集者の方に決めてもらっています。
阿部さんは自分で本のタイトルつけたんですか?
阿部さん:
自分で考えたというより、行き着いたという表現の方が正しいかもしれません。もともと、「超言葉術」という本を出すきっかけになったWebメディア『キャリアハック』の記事タイトルが、「コピーライターじゃなくても知っておきたい、心を掴む言葉の作り方」なんです。
タイトル決めのとき、それこそ200案ぐらい出しましたね。僕が主宰する連続講座の参加者のみんなにも相談して、編集者の方ともたくさん議論して……最終決定の一歩手前の段階で「愛と書かずに愛を伝える本」という案に決まりかけました。ところが編集会議で「ビジネス本を購入するひとたちは“愛”というタイトルだと手に取りにくいのでは?」とフィードバックをもらって、「売上の多くを占める書店で手に取られる方法を考えよう」と編集者の方と話しました。
ぼくも書店の店頭に足を運んで、売れている本をたくさんチェックしました。そのとき売れている本のタイトルで、「モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット」(著者・佐久間健一 出版社・サンマーク出版)を見つけたんです。「もしかしたら、特定の専門知識や知見のあるひとが抱えたがる、秘密にしたがるところに、ひとは手を伸ばしたくなるのかもしれない」と思うようになりました。
キャリアハックの記事はありがたいことにものすごくアクセスがありました。最初、ぼくは「I love youを何と訳しますか?」というお題に対して反応してくださったんじゃないかと思ってたんです。もちろんそれもあると思いますが、「コピーライターじゃなくても知っておきたい」という切り口がフックになった可能性も高いな、と。それで最終的に今のタイトルに行き着きました。
ひとは、ビフォー・アフターの変化に胸を打つ
吉田:
そういえば、この本のタイトル案にも「コミュ障のための〜」というものがありました。ただ、オンラインサロンのメンバーにヒアリングしたら「『コミュ障のための』と書いてあると手に取るのが恥ずかしい」という意見もあって。
阿部さん:
おお!素晴らしいヒアリング!そういうやり取りとかアンケートとかを見ると、本を読んでみたいという気持ちが高まります。ヒットさせるには、うわさ話がたくさんあるのがすごく大事だと思うんです。
吉田:
うわさ話?
阿部さん:
映画でも本でも音楽でも、うわさ話が作品を大きくします。ひと言、口を挟みたくなる状況が大切というか。その積み重ねが、見たい・聞きたいを大きくしてヒットを生む。アンケートなんてうわさの塊ですよね。本に書ききれなかった言葉をどんどん出していくことはとてもいいと思います。
あ!あと、ビフォー・アフターが好きですよね。「元はこうだった」とか「これがこうなったんだ」とか。変化を好まれる傾向にあると思います。
吉田:
ということは、つけていただいた「元コミュ障アナウンサーが考案した」には意味が生まれてるんですね。
阿部さん:
まさしくです!吉田さんの入社1年目のころの失敗談は、これまでの本で書かれているし、いろいろな場所で話されていると思いますが、読者やリスナーにとっては曲のサビみたいなもので、何度聞いても心地いいんですよ。
新刊が世に出ていくにあたり、吉田さんがいまでも勇気を振り絞っているエピソードを交えながら発信していくとすごくいい空気をつくっていけると思います。吉田さんも現在はアナウンサーとして大活躍されていますが、失敗を経験し、積み重ねた先にいまの姿がある、いわば生き証人ですよね。
「何かをするために自分を変えたい。でも嫌われたらどうしよう」と思うひとの背中を押してくれる本になるのではないでしょうか。会話をなんとかしたいと思っているひとにここまで寄り添って書いている本はなかなかないので。
吉田:
この本を読んで「試したくなる」という気持ちが生まれるのであれば、それこそ勇気ですね。
阿部さん:
この本を手にするといろいろな人と会話してみたくなりますもんね。「ひとと話すのが怖くなくなる、楽しくなる一冊」というふうに広まっていくといいと思います。
「伝えたい」「知ってほしい」が多すぎる世の中だからこそ
吉田:
阿部さんだったら、「この本を売ってくれ」と言われたらどうします?
阿部さん:
絶対にそういうお話になると思っていました(笑)。
最近「話したいひと」「伝えたいひと」がめちゃくちゃ多いと思うんです。そのぶん重要になっていくのが、聞き手なんですよ。会話の手綱って、じつは話し手ではなく、聞き手が握っている。吉田さんのようなアナウンサーという職業は、話すプロであり、聞くプロでもあるんだと改めて気づきましたね。吉田さんの本のなかに「リアクションは愛」という言葉がありましたが、“いかに聞くか”で会話の盛り上がりや満足度が変わる。「聞き方の重要さ」みたいなところを打ち出すと、手にとってくれる人は増えるんじゃないかと思います。
吉田:
確かに、みんな耳がいいひとの話を聞きたいはずなんですよね。
『CINRA.NET』のインタビューで元WIRED編集長の若林恵さんが「オウンドメディアをつくりたいという相談をよく受けるけど、全部断っている」というお話をされていたのですが、そのなかに『週刊文春』を例に挙げて“メディアの価値は「声の大きさ」ではなくて、「耳の良さ」に宿る”という言葉がありました。そういう意味でも、やはり耳のいいパーソナリティーのラジオ番組を聞きたいですもんね。
阿部さん:
会話がしんどいひとって、じつは話そうとしすぎているってことですよね。しんどかったらたくさん聞けばいい。
吉田:
相手が話してくれたら会話は1mmもしんどくないですからね。この本、じつは“聞く技術の本”だったという。
阿部さん:
何かをしようとし過ぎるとしんどくなるのかも。相手から話を引き出すのに徹するのも手ですよね。
吉田:
「しんどい」の正体って相手が話してくれないってことですからね。
阿部さん:
あー!本当そうですね。リアクションとってくれる人、貴重です。その場の救世主です。
吉田:
しかも、そんなにスキルがいらないという。
阿部さん:
「会話の主役は、じつは聞き手だった」は何度でも言いたいです。聞き方が上手になればなるほど頼られるし、人気が出るし、話が舞い込んでくるっていう感覚はありますね。本のなかで紹介されていた最強の相槌「え!?」と「あ!」なんて、本当うってつけですよね。
吉田:
シンプルなテクニックな割に、すごく相手はしゃべりやすくなるんですよ。もっとみんな活用したらいいのに。
阿部さん:
「え!?」と「あ!」だけで会話の主導権を握れる感じはあります。
吉田:
ただ、別に会話の主導権は握りたいわけではないんです。空白が生まれないように、「え!?」「あ!」の相槌を打ったり、「Howの問い」を投げかける。
阿部さん:
会話がスムーズにできればそれでOKということですね。
みんなに知ってもらいたい“貢献”の自己紹介
阿部さん:
吉田さん自身が本のなかで紹介されているテクニックで特に気に入っているものはありますか?
吉田:
自己紹介ですね。「貢献を軸に伝えて、弱点をひとつ添える」という。「巨人軍のキャプテンです」と地位について言うのではなく、「インコース高めはほぼヒットにできます」と貢献できる能力について言う。そして「でも、足はくさいです」とツッコミどころも伝える。
阿部さん:
弱点を添えることで愛される要素もある。
吉田:
個人的には、日本人の新常識として伝えていってもいいと思うくらい自信があるメソッドです。あ、もしかしたら痛い目をみたあとのほうが、この本を手にとってくれるかもしれませんね。面接試験会場の出口とかで落ち込んでいる学生に「この本の自己紹介のところ、役に立つよ」と、こっそり。
阿部さん:
面接の自己PRって一方的なコミュニケーションになりがちだけど、本当は違うんですよね。用意してきたことを話しつつも、面接の最後までにそれが伝わっているかどうかが鍵になる。
吉田:
そういう意味では、面接を受けるときでも、逆に質問をしにいったほうがいいかもしれませんね。
阿部さん:
面接は話す場ではなく、聞く場なのかもしれない。
吉田:
そして、「聞く」とは「質問する」なんですよね。会話においては質問こそが一番大事なんです。よく「聞き上手になれ」という言葉はありますが、どんな行動を起こせばいいのかさっぱりわかりませんよね。相手が勝手に喋ってくれる、となったら超能力みたい。
だとすると、この本は「教科書だけど意外性のある答えが出てくる」「会話で大切なのはしゃべることじゃない」というメッセージを発信すれば、世間は意外性を感じてくれる可能性があるってことですか?
阿部さん:
そうですね。極論「話すな!聞け!」ですね(笑)。
リアクションや相手に食らいついていく感じによって、お互いの関係性をグンと縮めることができる。これからの世の中に必要なのは、そういうリアクションをとってくれるひとなのかもしれません。発信しているひとじゃなくて、積極的にコメントやリアクションしてくれるひとこそインフルエンサーなのかもしれませんね。会話における聞き方の重要性と、それによって起きる奇跡を語ってくれている本だと思います。
「この言い方ってどうなの?」会議
吉田:
ちなみに阿部さんは「頑張ってください」という言い方、どう思いますか?
ラジオパーソナリティーのなかには番組にきてくれたゲストの方とのトークを「頑張ってください」で締めるひとがいるんですが、ぼくは許せなくて。
阿部さん:
確かに、投げやりな言葉ですよね。
吉田:
ホント投げやりですよね。きっと東京オリンピックが開催されてたら、あちらそこらでされていただろうと思います。せめて「いいことがありますように」とかですよね。阿部さんが気をつけている言い方ってありますか?
阿部さん:
……「素敵」ですかね。すごく使い勝手がいいから、うま味調味料のようについ使いたくなるんですが、気をつけないといろんな言葉をどんどん吸収していってしまう。だから気をつけています。
吉田:
映画や舞台のインタビューにおける「見どころはどこですか?」もそうですよね。もし阿部さんだったら映画監督に作品についてインタビューするとき、どんな言葉を使いますか?
阿部さん:
「一番撮影に時間かかったシーンは?どう撮影しましたか?」とかですかね。
吉田:
ですよね。結局、盛り上がる質問はHowなんですよ。WhatでもWhyでもなく。
阿部さん:
たしかに!おもしろいですね。「どうやって?」を聞き方に加えていくと、会話自体がもっと豊かになっていく。
吉田:
最近は完全に3枚におろされた現実しか出てこない。魚のアラみたいなものには全く触れなくなっちゃっています。ただ、別にそれの良し悪しを言及するつもりはないんです。この本は、綺麗に3枚におろされたものしか食べないひとたちにも食べてもらいたいと思って書きましたし。ただ、「ちょっと血合いが残っているぞ」ってことは伝えたいですね(笑)。
ピュアな阿部広太郎と意地悪な吉田尚記
阿部さん:
ちなみに吉田さんは、ぼくの本を読んでいかがでしたか?
吉田:
阿部さんの本は、すごくピュアなひとたち向けに書いていると思いましたね。
阿部さん:
ピュア?
吉田:
そう。世の中って良くも悪くもすごくピュアになってきていると思うんですよね。
90年代ぐらいまではJ-POPでも“どこかで聞いたことのあるようなフレーズや「愛している」というフレーズを歌詞に書いたら負け”みたいな風潮がありました。
ところが、最近はそういう雰囲気は薄れてきている。うがったものの見方をするひとが減ってきているというか。
あくまでもぼくの仮説ですが、見たくないものを見なくても生きていける時代になっていることが理由な気がしています。ぼくらの時代はネット好きはだいたい2chに行き着いて人間の悪意に触れていましたが、いまの10代は「5chは怖いところ」というイメージが根付いていているから踏み込むことすらない。ネットによって、ピュアなひとたちとそうではないひねくれたひとたちがはっきり棲み分けられているんですよね。そのなかで阿部さんの本は、ピュアなひとたちに向けた内容になっていると感じました。
阿部さん:
ピュアとは何か?にもよりますが、僕はどんなひとのなかにもきっとある真っ直ぐな気持ちを信じて書きました。現実に絶望しつつも希望を見出す。それでも何かを書きたい、伝えたいという人の可能性を少なくとも僕は信じきりたくて。応援団でいたい、というか。本って、書き手のスタンスがにじみ出ますよね。
吉田:
自分でいうのもおかしいですが、ぼく意地悪なんですよ(笑)。ただ、悪意はない。この違い、わかりますか?
阿部さん:
わかりますよ(笑)。優しさがありますから。この本もトレーニング次第でコミュニケーションは上達するという優しさのうえに成り立っているわけですし。
吉田:
よかったです(笑)。だから、特にピュアな方に向けたプロデュースはぜひ阿部さんにお願いしたいですね。
阿部さん:
でも、吉田さんのような意地悪な視点も大事だと思うんです。要は、意地悪なところを意地悪なままネガティブに伝えるか、背中を押すポジティブな言葉に変換するかの違いですよね。「ポジティブだけ」、「ネガティブだけ」だと全然飛距離が出ないんですよ。あくまでも「ネガティブありきのポジティブ」ではないと。
闇雲に何かを始める前に、耳を研ぎ澄まそう
吉田:
話せば話すほど、阿部さんの本とは補完関係にある気がしてきました。
ぼくの本って戦術の本なんですよね。会話の続け方はめちゃめちゃ詳しく解説していますが、その際の表現、描写の方法にはあまり触れていない。ぼく自身は感覚的にやっているところではあるので。一方、阿部さんの本は、そのあたりの細かな部分が詳述されていますよね
阿部さん:
そのあたりは丁寧にやろうと思ったところです。吉田さんの本と根っこの部分は同じなんですよね。
"心をつかむ超言葉術”というタイトルですが、心を掴もうとするというよりも、心を掴むためにひととの関係のなかに生まれる言葉をキャッチャーミットみたいに受け取ってあげる力が大事という話なので。それもあり、表紙のイラストも手を開いているんです。
吉田:
それでいうと「天気の子」はすごいですよね。確かに、新海誠監督が「天気で映画をつくる」と言ったときは一瞬理解できませんでした。
でも、「天気」って世界共通の話題なんですよね。世の中のひとたち、ひょっとしたら世界中の人がみんな、最近ゲリラ豪雨のような異常気象が多いことが気になっている。しかも、それが大ヒットになっている、心を掴んでいるんですよね。新海監督は、世界の声をよく聞いているということだと思います。
あと、辛いことと直面したときにしゃべる技術って役に立たないんですよね。逆に、聞く技術一発で全部解決できることがある。
阿部さん:
吉田さんはいい意味でビジネスライク感がないですよね。仕事をしていると、成果のみに目を向けさせられて、本来大切なメール文面や会議の雑談などをないがしろにしている場面を見掛けることがあります。雑談をホントに“雑”にしてしまっているというか。
吉田:
しかも、雑談自体がテンプレ化しているひともいますからね。「商談は雑談から」というテンプレ。
阿部さん:
雑談こそ愛情めいたものが入ってないと滑らかにならないんですよね。定型文の乱用で心ここに在らず、みたいな。それでいうと、聞き方ってじつは一番手っ取り早く変えられることなんですかね?
吉田:
5秒で変えられますね。
阿部さん:
そこが一番重要ですよね。ぼく自身、いま「言葉の企画2020」という連続講座を主宰していて、周りに目を凝らして、耳を研ぎ澄ませることで自分自身の本音に気づくし、周りのひととの関係性も築いていけると体感してるんです。5秒で変えられる聞き方から意識する、積極的な受け身を取っていけばいいと思います。
吉田:
まとめていただいてありがとうございます!また続き、やらせてください!!今日はありがとうございました!
文・写真 田中嘉人