もっと派手にね!③
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でも一人だと全然進まない。
「あははっ、手伝いますよ」ぎゅっとオールを掴まれた。
一つのオールで二人で力を込めて漕ぐほうが進んだ。
「協力プレイですね」
「そうだね」
恥ずかしくて目が見れない。
「さっきから全然私の顔見てない」
ぎくっとした
「いやあ、恥ずかしいよ、こんな可愛い子近くにいた事がないし、さ」
もう何言ってるのか自分でも分からない。キザすぎる。でも本心だ。
「でも分かります。私も人と目線合わせるの苦手なんで」と言いながら視線を斜めにずらした。
ああ、何を言うのが正解だったんだろう。
「あ、全然気にしないで下さい。」
「あ、ごめんね。俺の顔なんて見なくて良いよ。ブサ面が目立つし」自己嫌悪してきた。
「そんな事ないですよー。孝宏さん、コンタクトしてるんですか?」
「あ、うん。」
「私もコンタクトしててー、絶対ゲームのし過ぎ」
「あ、俺も。視力超絶悪い。」
「いつからコンタクトですか?」
「大学1年からかな...」
「大学デビューだ」
「うん、モテたいと思って。でも結局大学も男子ばっかの電子工学科で意味なかった」
あっ、僕が女性経験なしなのバレてしまうかな。
「私も大学まで女子の世界にいたので仲間ですね」
「合コンとかなかったの?」人生で初めて人に聞く質問だ。
「あー...1回だけ言ったんですけどもう、ダメでしたね。空気が。」
「俺行った事ないからやっぱり行くだけ偉いよ」
「あはは、別に行くような所じゃないですよ」
木々がきらきらと光り、水面が僕等を映している。
「気持ち良いですねー!」
「本当、そうだね」
この静謐な空気は何度行っても素晴らしいし、このみみっちいプライドとか溶かしてくれそうだった。
漕ぎ終わり、ようやく釣りに入った。ニジマスの釣れるポイントを事前に入念に探し、2日前に会社前に朝5時からスタンバイして1匹釣れたから多分大丈夫。
座席を用意し、クーラーボックスで予め冷やしていた緑茶とタオルを差し上げた。
「ありがとうございますー。本当準備万端!」
「日焼け止めもあるからね」
「ええー、すごーい。A型でしたっけ?」
「いやB型。こういう好きな事に限ってはとことんやる。それ以外の事は何もしないけど」
「あはは、私もそうです」
よく笑う子だ。