【ぬいぐるみの恩返し】15「将来の夢」
今日は日曜日なのに、佳乃さんは赤ペンを持って机に向かっている。佳乃さんが家で仕事をするのはよくあることだ。佳乃さんの仕事は、マレーシアの若者に日本語を教えることだ。
そばで見ているぱん田によると、今日は作文の添削をしているということだ。ぼくは「どんな作文?」と聞いてみた。
「『将来の夢』っていう題。ほとんどが日本に留学したいって書いてある。通訳になりたいっていうのも少しあるけど。」
将来の夢か。「ぱん田の夢は何?」とぼくは聞いてみた。
「ボクの夢は、庭の大きな家に住んで、佳乃さんと一緒にガーデニングをすることだよ。」
花の好きなぱん田らしい。
「プトラは? プトラの夢は何?」
「ぬいぐるみのツアーに参加して、ぬいぐるみの友達をおおぜい作ることかな。」とぼくは答えた。でも、言ったそばからガーにこう言われた。
「お前は無理だって言っただろ。大きすぎる。」
そんなこと、分かってる。でも、実現できるかどうかに関係なく、夢を語ってもいいじゃないか。
ぱん田が嫌な空気を変えようとしてか、明るい声で言った。
「佳乃さんの仕事は、マレーシアの若者の夢をサポートすることなんだよ。すてきな仕事だね。」
うん、すてきな仕事だ。ぼくはふと思ったことをぱん田に聞いてみた。
「佳乃さんの夢は何かな?」
答えたのはガーだった。
「佳乃の夢はもう実現した。佳乃の夢は外国で働くことだったからな。」
そうなのか。佳乃さんは夢を実現したんだ。良かったね。
「でも、それは前の夢でしょ? 今は夢がないのかなあ?」とぱん田が言った。
佳乃さんも夢があるのかな? 佳乃さんの夢は何だろう? ぼくは佳乃さんの夢をサポートしたいな。といっても、ぼくはただのぬいぐるみだから、ぼくにできることなんて何もないんだろうけど。
佳乃さんは夜寝る前に、ベッドでぱん田と一緒に本を読む。面白い本を読むと、ぱん田はぼくにその本のあらすじを教えてくれる。佳乃さんは大人なのに、子供向けの本が好きだ。今日はこの本を読み終えたようだ。
「ぱん田、おもしろかったね! 子供向けの物語はワクワクしたり、癒されたりしていいよねえ。自分でも物語が書けるといいなあ。」
もしかして、これが佳乃さんの今の夢なのだろうか。
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