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【ぬいぐるみの恩返し】20「新しいお客さん」

 ツアーが終わって1週間たった。ぼくはまだツアーの仲間と一緒にオフィスで楽しく過ごしている。

 旅行会社の人が言った。
 「次のツアーのお客さんが到着したから、みんなでウェルカムしてね!」
 もちろん! どんなぬいぐるみが来るのかな。お友達になれるかな。ぼくはワクワクした。それなのに・・・。

 箱から出てきたのはガーだった。まさか旅行会社でガーと一緒になるとは思っていなかったから、ぼくは驚いた。そして、がっかりした。せっかくツアーの仲間やガイドさん達と楽しく過ごしているのに・・・。

 でも、ガーはいつものガーではなかった。ぼくを見ると、「プトラ、久しぶり! 元気だった?」と明るく声をかけてきた。ぼくはあまりの驚きで返事ができなかった。ガーはこの間までぼくのことを無視していたのに。それに、ガーがぼくのことを名前で呼んだのは、初めてじゃないだろうか。いつもは「お前」と呼ばれていたから、なんだか気味が悪い。

 「佳乃が次のツアーに申し込んでくれたんだ。」
 ガーはぼくに向かってにっこりした。人間にはぬいぐるみの微妙な表情の変化は分からないかもしれないけど。ガーは旅行会社に来たことが嬉しくてたまらないといった様子だ。ガーのこの機嫌の良さがずっと続くといいんだけど、大丈夫だろうか。
 

 それから数日の間に新しいツアーのぬいぐるみが続々と到着した。そして、ぼくのツアーの仲間は帰ることになった。ツアーの仲間と離れるのは本当に寂しかった。同じツアーに参加したぼくたち8人は、強い絆を感じていた。
 「また一緒にツアーに参加しようね。」
 みんなとそう約束したけれど、もちろんそれぞれの持ち主が同じツアーに申し込まないことには、その約束は果たせない。ぬいぐるみの世界は、自分ではどうにもならないことばかりだ。

 ぼくももうすぐマレーシアに帰るのか。早く佳乃さんとぱん田に会いたいな。そう思っていたぼくに、旅行会社の人がこう言った。
 「プトラ君にはもうしばらく滞在してもらうね。ガーさんのツアーが終わったら、ガーさんと一緒に帰ろうね。」
 え、ぼく、ガーと一緒に帰るの? ぼくは一人で先に帰ってもいいんだけど。もしかして、佳乃さんはぼくの帰りの送料を払ってくれなかったのだろうか。 

 旅行会社にいられるのは嬉しいけれど、ツアーの仲間は帰ってしまうし、ガーと二人きりで帰るのも気が進まない。マレーシアから日本まで1週間くらいかかったから、帰りも同じくらいかかるのだろう。
 ガーと1週間も二人きりで箱の中。そう考えると少し憂うつになってきた。

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