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【ぬいぐるみの恩返し】17「中秋節」

 ぱん田はいつも佳乃さんと一緒にパソコンを見て、いろいろな情報を得ている。ぱん田によると、今日は中秋節、日本で「お月見」という日らしい。

 夜になると、佳乃さんはぼくとガーを家の前に連れて行った。そして、門の柱の上にぼくたちを座らせた。ぼくたちは月を見ている。その様子を佳乃さんが後ろから撮影しているようだ。小さい子供を連れた中華系の家族が提灯を手に家の前の道を通り過ぎる。佳乃さんが「ハロー」と声をかけた。モスクからお祈りの時間を知らせる声が聞こえてきた。

 ぼくとガーは長い間、並んで丸い月を見ていた。佳乃さんはまだ写真を撮っているのだろうか。

 そういえば、お月様に願い事をすると叶うと聞いたことがある。本当かどうか分からないけど、やってみてもいいだろう。お願いするのは満月だろうか。いや、新月だった気もする。忘れてしまった。でも、ぼくが月を見るチャンスはもうないかもしれないから、今日のお月様にお願いしてみよう。
 ぼくの願いは一つだ。
 

 お月様へ
 ぼくは佳乃さんに拾われて、とても幸せです。佳乃さんはぼくにとても優しくしてくれます。ぼくはもうすぐ旅行にも行かせてもらいます。ぼくは佳乃さんに感謝してもしきれません。
 ぼくは佳乃さんに恩返しがしたいです。どうすればいいですか? ぼくにできることを教えてください。
                             プトラより
 

 部屋に戻ると、佳乃さんはスマホをいじり、それからパソコンに向かった。ぱん田によると、佳乃さんはぼくたちの写真をSNSに載せたそうだ。そして写真にはこんな文をつけたらしい。
 「今日は中秋節。ガーとプトラが仲良くお月見」

 「仲良くお月見」の後ろにはハートマークもつけたらしい。ぼくたち、本当は仲良くないんだけど。
 そう言えば、今日はガーに何も言われなかった。ぼくはガーにもたれて座っていたから、「ガーにもたれるな!」とか言われるかと思ったけど。もしかしたら、ぼくとはもう話さないと決めたのかな。意地悪を言われるのはもちろん嫌だけど、無視されるのも嫌だ。
 
 
 翌日、佳乃さんが段ボール箱を持ってきた。ぼくを日本へ送るための箱だろう。佳乃さんはぼくを抱き上げて、こうささやいた。
 「プトラ、いっぱい楽しんできてね。」

 そして、ぼくのほっぺにキスをした。佳乃さんがガーの鼻にキスをするのは何度も見たけど、まさかぼくにもキスをしてくれるとは思わなかった。でも、嬉しかった。ぼくは佳乃さんに愛されているんだ。ありがとう、佳乃さん。ぼくも佳乃さんが大好きだよ。

 ぼくは日本に向けて出発した。

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