【ぬいぐるみの恩返し】4「絶望」
ゴミ箱の上に置かれて、何時間たったのだろう。
ぼくは何百回も子供に拾ってもらうところをイメージしたけれど、子供は来なかった。というか、人がほとんど通らなかった。車はけっこう通るけど、車の中の人間はぼくに気づかない。自転車に乗った女の人が一人近くを通ったけど、ぼくに気づかずに通り過ぎた。やっと歩行者が来たと思っても、スマホを見ていて自分の足元さえ見ていないのだから、ぼくに気が付くわけがない。
このまま人間に拾ってもらえなければ、ぼくはどうなっちゃうんだろう。このままゴミ箱の上にいたら、ぼくもゴミだと思われてしまう。いや、「ゴミだと思われる」じゃなくて、もうすでにゴミではないか。人間に捨てられたのだから。
もう子供じゃなくてもいい。だれでもいいから、ぼくを拾ってくれ。
人間に拾われる前にゴミ収集車が来たらどうしよう? ぼくは動くのが遅い。ぼくがゴミ収集車に気づいて逃げ出すより先に収集車が到着して、ほかのゴミと一緒に収集車に投げ入れられてしまうだろう。その後はどうなるのだろう? どこかへ連れて行かれて燃やされちゃうのかな。それとも埋められちゃうのかな。
それなら、今すぐこのゴミ箱から降りて、他の所に行った方がいい。でも、どこへ? どうやって?
ぼくがそう考えていた時、ゴミ箱のそばに一台のバイクが止まった。運転手の男はバイクを降りるとヘルメットを脱いだ。
ぼくは叫んだ。
「助けて! ぼくはゴミじゃないんだ。助けて!」
人間にはぬいぐるみの声が聞こえない。それが分かっていても、ぼくは叫ばずにはいられなかった。
男の人はバイクの後ろの箱にヘルメットを入れた。そして、ぼくのほうを見た。目が合った。助かった! ぼくはそう思ったのに、男の人はそのまま立ち去ってしまった。そうか、人間がぼくに気づいても、拾ってくれるとは限らないんだ。
その時、ゴミ収集車が角を曲がってこちらへ来るのが見えた。もう逃げる時間もない。ぼくの計画は大失敗だった。こんなことになるなら、ずっとクローゼットの中にいる方がましだった。家を出る前はあんなにワクワクしていたのに、今は悲しくて、惨めで、悔しくて、最悪の気分だった。泣きたかったけど、涙が出なかった。
ゴミ収集車が近づいてくる。もうだめだ。
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