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【ぬいぐるみの恩返し】22最終話「プトラの物語」

 二人きりの箱旅をきっかけに、ぼくとガーは大親友になった・・・というわけではない。でも、友達になったとは言えるだろう。ぼくとガーが仲良く帰宅したから、ぱん田がとても驚いていた。


 ぼくが旅行会社から帰って、数か月たった。

 夜、ぼくはいつものように佳乃さんのベッドに寝かされた。ぼくはなかなか眠れなくて、なんとなくぼくの半生を振り返っていた。
 ジェニファーの友達がぼくをジェニファーにプレゼントしたこと。長い間クローゼットに閉じ込められていたこと。ジェニファーのエコバッグに潜り込んだこと。ジェニファーに見つかって「気味が悪い」と捨てられたこと。ぼくを拾った佳乃さんが女神に見えたこと。

 あれから1年もたっていないのに、なんだか遠い昔のことのような気がする。ガーにはすぐに飽きられるって言われたけど、佳乃さんは今でも時々ぼくを連れて出かけて、写真を撮ってくれる。寝るときは一緒だし、最近は本も一緒に読んでくれる。

 佳乃さんには感謝してもしきれない。でも、佳乃さんだけじゃなく、昔のぼく自身にもお礼を言いたい気分だ。ジェニファーの家を出ると決断して、行動してくれて、ありがとう。危うくゴミ収集車に持って行かれるところだったけど、今が幸せだから、やっぱりあの時決断して良かった。
 

 「佳乃さん、おはよう。」
 次の朝、ぼくはいつものように佳乃さんに挨拶した。もちろん佳乃さんには聞こえないけれど。佳乃さんは眠そうに目をこすり、それからぼくを抱き上げた。
 「プトラ、おはよう。プトラの夢、見たよ。」
 ぼくの夢? どんな夢かな?
 「プトラがね、クローゼットに閉じ込められてるの。暗い中に一人ぼっちで、プトラが悲しそうな顔してた。それからね、プトラが若い女の子に捨てられちゃったの。若い女の子がプトラをバッグから取り出して、『気味が悪い』って言って、プトラをゴミ箱の上に放り投げたの。」

 それ、昨夜ぼくが思い出していたことだ。いったいどうして・・・。
 「佳乃さん、ぼくの声、聞こえる? プトラだよ!」
 そう叫んでみたけど、佳乃さんは聞こえないようだ。佳乃さんは起き上がって机に向かい、紙に何かをメモした。
 
 
 佳乃さんは朝食を済ませるとパソコンに向かった。
 「プトラ、佳乃さんがプトラの物語を書いてるよ。」
 いつものように佳乃さんと一緒にパソコンの画面を見ているぱん田が言った。「プトラの物語じゃなくて、ガーの物語を書いてよ。」とガーが言ったけど、佳乃さんに聞こえるわけがない。

 佳乃さんは一日中パソコンに向かっている。佳乃さんの顔は見えないけど、なんだか楽しそうな空気が伝わってくる。そういえば、佳乃さんは物語を書きたいと言っていたっけ。
 ぼくが佳乃さんに伝えようと思って半生を振り返ったわけじゃない。でも、なぜかそれが佳乃さんに伝わって、佳乃さんは喜んで物語を書いている。ぼくは佳乃さんの役に立てたのかな。ぼくが佳乃さんに恩返しできたとしたら、これほど嬉しいことはない。

 
 中秋節の夜、ぼくは願った。佳乃さんに恩返しがしたいと。もしかしたら、ぼくの願いをお月様が叶えてくれたのかもしれない。

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