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【ぬいぐるみの恩返し】3「ゴミ箱の上」

 ぼくは昨日の夜、エコバッグに入り込んだ。そして今朝、ジェニファーはぼくの入ったエコバッグを持って、外に出た。ぼくはジェニファーがスーパーに入るまで、エコバッグの中にじっと潜んでいるつもりだった。それなのに・・・。

 ふいにジェニファーの手がエコバッグの中に入ってきた。そして、その手がぼくに当たった。ジェニファーは「あれ?」と言ってバッグをからぼくを取り出すと、不思議そうな顔でぼくを見た。

 「何で? どうしてここにあるの? 入れてないのに…」
 ジェニファーはそのまま黙り込んで、ぼくを見つめていた。

 どうしよう。見つかっちゃった。家に連れ戻されてしまう。ぼくなりによく考えて計画を立てて、バッグに潜り込んだのに。もうすぐ新しい家族のところへ行けるはずだったのに。ぼくの考えが甘かった。

 でも、ジェニファーはぼくを家に連れ戻さなかった。
 「なんだか気味が悪い。」
 ジェニファーはそうつぶやくと、そばにあった緑色のゴミ箱にぼくを投げ入れた。そして、そのまま歩き去った。え、ぼく、捨てられた?

 ぼくの計画は狂ってしまった。ぼくは自分から家を出ようとしたのに、ぼくがジェニファーを捨てようと思っていたのに、逆にジェニファーに捨てられた。そう考えたら何だか悲しくなった。ジェニファーのことは別に好きじゃないのに…。

 ぼくの体はゴミ箱の上に置かれていた洗面器に入った。体勢はうつ伏せだから、洗面器の底しか見えない。ちょっと顔を動かしてみたけど、何かの袋とシャンプーのボトルしか見えない。仰向けになって、周りの状況が見たい。

 今、動いてもいいかな? 人間に見られてないかな? 鳥の声が聞こえる。車の通る音も聞こえるけど、遠くのようだ。人の声は聞こえない。足音も聞こえない。よし、仰向けになろう。仰向けになると、ぼくの上には真っ青な空が広がっていた。


 よく考えたら、これも悪くないかもしれない。ここで人間が通るのを待って、拾ってもらおう。ゴミ箱の上はちょうど子どもの目の高さだ。子どもがここを通ったら、すぐにぼくに気づくだろう。そして、目を輝かせてこう言うんだ。

 「わあ、かわいいウサギ! このウサギ、連れて帰る!」

 強くイメージしたことは実現する。そんな話を聞いたことがある。だから、ぼくは強くイメージした。何度も何度もイメージした。子どもがぼくを見つけて、ぼくを抱き上げて、目を輝かせてこう言う。

 「わあ、かわいいウサギ! このウサギ、連れて帰る!」 

 早く子どもが来ないかな。


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