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【ぬいぐるみの恩返し】9「新しい名前」

 その後もバッグの中で揺られていると、ぱん田が言った。
 「佳乃さんはきっとプトラに新しい名前をつけるよ。」
 新しい名前・・・。ぬいぐるみの名前は持ち主からの最初のプレゼントだと聞いたことがある。ぼくはさっき自分で名前をつけたばかりだけど、持ち主に名前を付けてもらえることは幸せなことだ。

 ぱん田が言った。
 「プトラはウサギだから、バニーじゃない?」
 バニーか。単純だな。でも、パンダのぬいぐるみが「ぱん田」、ドラえもんのぬいぐるみが「ドラちゃん」だから、佳乃さんには名づけのセンスがないらしい。ぼくはバニーになるのかな。佳乃さんがぼくにバニーと名付けるなら、それでもかまわない。

 しばらくすると、佳乃さんがぼくに家を見せて言った。「これが君の新しいおうちだよ」。
 佳乃さんの家は1階建てのリンクハウスだ。こういう家を日本では長屋と呼ぶようだ。10軒くらいの家が横に長くつながっている。新しい家ではない。日本人はお金持ちだと聞いたことがあるけれど、佳乃さんはそうでもないらしい。

 家の中には男の人がいた。佳乃さんはぼくを男の人に差し出した。
 「ねえ、見て。このウサギ、さっき拾ったの。ほら。」
 スマホで男の人に何か見せる。きっとぼくがゴミ箱の上にいる写真だろう。そんな写真、見せなくてもいいのに。

 「こんなにきれいなのに、捨てられてたんだよ。不思議だよね。名前を決めなきゃ。」
 佳乃さんがそう言うと、男の人が答えた。
 「ウサギだから、バニーでいいんじゃない?」
 バニー。この人も単純だなあ。
 「バニーねえ・・・。そうだ! 『ぱん田』みたいにひらがなと漢字にしようかな。『ウサ』はひらがなで『ギ』は漢字。『うさ木』。どう? いいんじゃない?」
 男の人は肩をすくめた。ぼくの名前なんてどうでもいいと言いたげだ。
 「うさ木」か。それならバニーのほうがましだ。
 
 佳乃さんはぼくを別の部屋に連れて行った。佳乃さんの部屋のようだ。佳乃さんはぼくを抱き上げて見つめた。
 「君はこんなにきれいなのに捨てられてたね。かわいそうな子だから、何かいい名前をつけなきゃね。」

 佳乃さんはぱん田をパソコンの前に座らせると、何か調べた。後でぱん田に聞いたら、「ウサギの名前」で検索したらしい。佳乃さんは「うーん」と言いながら画面をスクロールしている。気に入るのがないようだ。
 佳乃さんはふとある本に目を向けた。パソコンのそばにあったのはこの本だ。

 「王子さま・・・」
 佳乃さんはそうつぶやくと、また何か検索した。

 「プトラ・・・」
 え? 今、ぼくの名前を呼んだ?
 佳乃さんはぼくを抱き上げて見つめた。
 「君、プトラになる? プトラっていう名前、気に入った?」

 なんという偶然だろう。佳乃さんはぼくに「プトラ」と名付けた。佳乃さんはぼくを再び男の人の所へ連れて行った。
 「この子の名前、プトラにする。プトラって王子さまの意味だよね?」
 
 「プトラ」は「王子さま」の意味? わあ、かっこいい名前!
 佳乃さんがぼくに「プトラ」という名前を付けてくれた。ぼくも本当にびっくりしたし嬉しかったけれど、なぜかぱん田の方が大騒ぎだった。
 「佳乃さんがプトラにプトラって名前を付けたね! すごい偶然だね! ボク、びっくりして倒れそうだったよ!」  
 ぱん田はこの後「すごい!」を100回ぐらい言っていた。

 ぼくはプトラ、王子さまという名前をもらった。


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