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【ぬいぐるみの恩返し】1「決断」

 ぼくはウサギのぬいぐるみ。水色のシャツを着て、青いズボンを履いている。後ろから見ると、ズボンから丸いしっぽが出ている。全体の色は薄い茶色で、目と鼻と口は黒い。大きな鼻のすぐ下に小さな口がある。この小さな口がぼくのチャームポイントだ。

 ぼくの持ち主はジェニファーという女の子。大学生だ。ぼくはジェニファーの友達からの誕生日プレゼントだった。

 「わあ、かわいい! 気に入ったわ。ありがとう!」
 ぼくをもらった時、ジェニファーはにっこりしてそう言ったのに、一度もぼくと遊んでくれたことがない。ぼくはもう何か月もクローゼットに閉じ込められたままだ。 

 人間の世界には「親ガチャ」という言葉があるらしい。親を選ぶことはできない、親には当たりはずれがあるという意味だ。ぬいぐるみにとっての持ち主も同じだ。どんな持ち主のもとに行くかによって、ぬい生は決まる。ぬいぐるみに全く興味のないジェニファーは「はずれ」だった。

 ぼくは新しい家族が欲しかった。小さな子どものいる家族がいいな。毎日子どもとたくさん遊びたい。一緒に絵本を読んだり、テレビを見たりする。もちろん夜は子どもの枕もとで寝る。悩みがあったら聞いてあげるし、悲しんでいたら慰めてあげる。一緒に旅行やキャンプに行くのもいいな。ぼくの体がボロボロになったってかまわない。子どもと何年も一緒に過ごして、その子どもが成長するのをぼくが見守ってあげるんだ。

 そういう夢を抱くのは、きっとぼくだけじゃない。多くのぬいぐるみがぼくと同じ夢を抱くだろう。

 持ち主が「はずれ」でも、ぬいぐるみは我慢するしかない。ぼくみたいにクローゼットに閉じ込められるか、棚の上でほこりをかぶって何か月も何年も過ごす。そしてある日、「断捨離」とかいう理由で捨てられる。持ち主が「はずれ」なら、それが運命だとあきらめるしかない。

 ぬいぐるみはみんなそう思っている。ぼくもついこの間まではそうだった。でも、今のぼくは違う。この間、誰かがこう言うのが聞こえてきたんだ。たぶんジェニファーがテレビか動画を見ていたのだろう。

 「夢は実現する。あなたがそれを実現しようと決断さえすれば・・・」

 夢は実現する? ぼくの夢も? 決断さえすれば?
 だから、ぼくは決断した。この家を出て、新しい家族のところに行く!

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