【ぬいぐるみの恩返し】16「ツアーの募集」
数日後、佳乃さんと一緒にパソコンの画面を見ていたぱん田が言った。
「ツアーの募集があるよ!『海外のぬいぐるみの皆様、円安のタイミングで日本に旅行しませんか?』だって。」
「行く! 佳乃、申し込んで!」とガーが騒ぐ。佳乃さんに聞こえるわけがないんだけど。ガーの声が聞こえようが聞こえまいが、佳乃さんはきっとガーを行かせるんだろう。
佳乃さんは不意に定規を取り出すと、ぼくの身長を測った。前にも測ったのに。次に、棚の上から段ボール箱を取ると、その中にぼくとガーを並べて入れた。何だろう?
「お前、ガーの箱に勝手に入るな。これはガーが旅行会社から帰ってきたときの箱だから、ガーの箱だ。」
そんなこと言われても、ぼくを入れたのは佳乃さんだ。
佳乃さんは箱に入ったぼくたちの写真を撮った。それから佳乃さんが何をしていたか、ぱん田が教えてくれた。
「プトラを行かせたいみたいで、大きさが大丈夫か質問したよ。」
え、ぼくを? 大きすぎるから無理だって何度もガーに言われたけど、もしかして行けるのかな? ぼくはドキドキしてきた。
「お前は無理だ。大きすぎる。」とガーは言ったけど、今日は不安げなつぶやきだった。
しばらくして、ぱん田が言った。
「返事が来たよ。『サイズは大丈夫です。お待ちしています!』だって。良かったね、プトラ!」
え、本当に? ぼく、ツアーに参加できるの? 佳乃さん、ぼくを行かせてくれるの?
つい先日ツアーに行くのがぼくの夢だと言ったけれど、まさか本当に行けるとは、しかもこんなに早くチャンスが来るとは思わなかった。ぼくは飛び跳ねたいくらい嬉しかったけど、体は動かない。
「なんでお前が行くんだよ。お前がいなければ、ガーが行けるのに。」
やっぱりガーに嫌味を言われたけど、ぼくは喜びのほうがあまりに大きくて、ガーの言うことなんて気にならなかった。
ぼくの到着締切までにはだいぶゆとりがあった。ぼくはすぐにでも出発したかったけど、佳乃さんは行かせてくれなかった。佳乃さんはぼくが床にモップをかけているところや、洗濯物をたたんでいるところを写真に撮って、旅行会社の人に送った。ぱん田によると、写真と一緒にこんなコメントを送ったそうだ。
「プトラは渡航費を稼ぐために、仕事をしています。」
そうか。ツアーの料金だけでなく、ぼくが日本に行って帰ってくるのもお金がかかるんだ。
ぼくはもちろんモップがけも洗濯物をたたむこともできない。モップを抱えるのだって、佳乃さんが見えないところでぼくの腕を抑えている。洗濯物をたたんでいる写真だって、佳乃さんがたたんだタオルの上にぼくが手を広げているだけだ。お手伝いをしているふりじゃなくて、本当にお手伝いができればいいんだけど。
佳乃さんはこんなにぼくに良くしてくれるのに、ぼくは佳乃さんに何もしてあげられないのが歯がゆい。
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