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【ぬいぐるみの恩返し】18「旅行会社に到着」

 箱に入ってどれくらいたったのだろう。全く見当がつかない。
 箱の中は真っ暗だ。一人ぼっちで真っ暗な中にいると、ジェニファーのクローゼットの中を思い出した。でも、あの時とは全然違う。ぼくはこれから旅行会社に行くんだ。どんなところに連れて行ってもらえるのかな。友達ができるかな。ぼくはワクワクしていた。

 そしてとうとう箱が開けられた。ぼくを見ているのは女の人だ。旅行会社の人に違いない。
 「プトラ君、ようこそ。待ってたよ。」
 その人はぼくを抱き上げると、ぼくに声を出して話しかけた。ぬいぐるみが人間の言葉を理解することを知っているのだろうか。もしかしたら、この人はぬいぐるみの声が聞こえるのかもしれない。
 「はじめまして。プトラです。どうぞよろしく。」
 大きい声で挨拶してみたけれど、どうやらぬいぐるみの声は聞こえないらしい。

 ぼくと同じ日に到着したぬいぐるみは、アメリカから来たそうだ。アメリカか。きっとぼくよりも長い間箱の中にいたんだろう。大変だな。ぬいぐるみ同士はテレパシーでコミュニケーションできるから、言葉の壁なんてない。この点はぬいぐるみの方が人間よりも優れているのではないか。

 旅行会社にはガイドさん以外にも前のツアーに参加したぬいぐるみたちがいて、ぼくたちにいろいろ教えてくれた。天気がいい日は屋上でお昼ご飯を食べること。夜は自分たちで布団を敷くこと。ツアー以外にも、ちょっとしたアクティビティがあること。旅行会社の人が一日に何度も写真を撮って、SNSに載せること。
 ぬいぐるみたちはみんな優しかった。ぼくは大きすぎてみんなの邪魔にならないかと心配したけど、だれもぼくが大きいなんて言わなかったから安心した。
 
 「みんな、今からちょっとお散歩に行くよ。今日到着した二人は疲れてないかな?」
 わーい。お出かけだ! 
 お客さんはみんなで10人。旅行会社の人はぼくたち全員を連れて行ってくれるようだ。早速みんなとお出かけできるなんて、ラッキーだ。

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