
『野狗子: Slitterhead』アクの強い魅力
『野狗子: Slitterhead』(以下「野狗子」)最高難易度の Nightmare でクリアしてプラチナトロフィーを獲得しました。アクは強いものの個人的には非常に楽しめましたし、他人にも勧めたい作品です。この記事では具体的にどういう意味でアクが強いのか、どういう人にオススメなのかということを、完全に主観でですがご紹介します。
人を選ぶゲーム
「野狗子」は「サイレントヒル」や「SIREN」「GRAVITY DAZE」のディレクターである外山圭一郎さんによる新作ゲームです。ジャンルとしてはアクションホラーなのですが、90年代初頭の香港風の架空の街である九龍を舞台とし、モブに憑依して戦闘をするなど、独特なギミックがいくつも用意されています。

とにかくこの憑依システムが独自性があって面白く、また九龍の街もかなり細かく作り込まれており、それに外山作品らしい魅力的なキャラクターもあって、久々に熱狂できるゲームでした。正直なところ完成度の低い部分もあり、そこが気になる方はハマれないのでしょうが、僕自身はそこに残念さを覚えつつもゲーム自体はしっかり楽しめました。このゲーム独自の魅力にどこまでハマれるかという部分が、賛否の分かれ目なのかなと思います。
また、ジャンプスケア(大きな音などで驚かすような演出のこと)がほとんど無いのもとても助かりました。外山監督作品はジャンプスケア演出が少ないのが特徴で、「サイレントヒル」も「SIREN」も、驚かすというよりは倫理観をゆさぶる展開で精神的に追い詰めたり、怖いと知っていて立ち向かわなければいけない恐怖を描くのが中心で、僕もそちらの方が好きなので信頼しています。
生命を「使い捨てる」面白さ
「野狗子」ではそのへんを歩いているモブに乗り移って自由に操作できる憑依をゲームの基本システムとしていて採用しています。主役である憑鬼は精神体として人間に憑依しているだけなので、体力がゼロになる瞬間に今の肉体を乗り捨てて他の人間に憑依すれば残機は減りません。そのため、敵と戦うときはモブをどんどん乗り捨てながら戦うという、かなり倫理観の欠如した戦い方ができますし、そういう作戦を取らせるようゲームもデザインされています。
戦闘以外にも、高所から飛び降りる際に着地寸前に別のモブに乗り移れば平気、のような操作でも何らペナルティがないのもゲームとして興味深い部分です。慣れてくると、この乗り捨てていく感覚がむしろ楽しく、人間を人間と思わないプレイになっていくのですが、その感覚が物語の展開にも大きく絡んでくるあたり上手いなと思いました。
物語終盤では、そのせいで痛い目を見る展開も用意されていてなかなか考えられます。こういう仕掛けは自分の精神をハックされるようでかなりツボでした。外山監督作品は常にそうなのですが、ゲームシステムと物語とをリンクさせるのがとても上手いなと感じますし、これこそゲームを自分の手でプレイする醍醐味だと思います。
「手触り」と「必然性」
「野狗子」をプレイすると、明らかに他のゲームと違う操作感を目指しているな、と感じることがあります。ボタン配置自体も特殊なのですが、次から次と憑依しつつ戦うスピード感や、パリィ的な要素であるディフレクトも集団戦を意識しつつ他の有名作品とは明らかに異なる、独特の操作感になっています。この操作感はこのゲームでしか味わえないぞ!という制作者の声が聞こえてくるようです。
それらのギミックが単に奇をてらっただけのものだと困りますが、一定の必然性の元に作られているので、最初は少し戸惑うものの慣れてくるとむしろ中毒性があるのもポイントです。むしろ意味もなく憑依やディフレクトを繰り返して、自分なりのプレイを追求してしまう気持ち良さすらありました。ただディフレクトが便利すぎて憑依を使わずともクリアできてしまい、憑依の便利さに気付きにくいかもしれません。
また、幾つかのレビューで指摘されていた、敵が怯みにくいのにプレイヤーキャラはすぐよろけるのは、このゲームが憑依して操作キャラをどんどん乗り換えていくスタイルなので、あえてそのように作ってあるのだと思います。言い換えれば他のゲームの感覚でプレイできないように作ってあるわけで、そういった先入観を捨ててプレイするのがオススメです。高速で憑依しまくってタコ殴りにするのは楽しいですよ。
舞台と人物の魅力
舞台となる九龍の街や、人物もとても魅力的で、久々にファンアートを描きたいと感じる作品でした。ただこのあたりは好みの問題ですし、実際にプレイしてみないと分からないところだと思うので、簡単にご紹介する程度に留めておきます。

街については、個人的に90年代香港に思い入れがあることもあって、かなり高密度に再現された街並みを歩けるというだけで感動しました。香港の街並みだけでなく、九龍城砦をそのまま再現したようなマップもあり、しかもどれも生活感たっぷりに描写されていて、ミッションとは無関係な所まで探索したりしています。
#野狗子 夜の香港の路地裏をこの密度感で再現されると無限に時間が溶ける……。 pic.twitter.com/hMAjKKxsob
— 吉田誠治 (@yoshida_seiji) November 22, 2024
人物も、これまでの外山作品と同様に不思議な魅力があるのですが、特に主人公の一人であるアレックスが、闇医者・眼鏡・バイク乗り・刺青・喫煙者という欲張りセットなのが最高です。他にも個性豊かなキャラクターだらけなので、特に「SIREN」のキャラクターにハマったような人には「野狗子」もオススメです。

ちょっとしたコツ
繰り返し遊んでみて、こうすると上手く攻略できるな、と気付いたポイントが幾つかあるので、最後にいくつかご紹介しておきます。
強攻撃は隙が大きいので、通常攻撃で何度も殴るのがオススメ。
憑依を多用すると戦闘の難易度が下がる。敵は直前に攻撃してきたキャラクターに反撃するので、一度殴ってから別のキャラに憑依すると、安全に攻撃できるし倒れてる人を助け起こしたりもしやすい。憑依直後はモブの攻撃力も上がる。ウォークライで注意を引いてもいい。
殴り終わってから別のキャラに憑依すると遅い。攻撃モーションが始まった次点で別のキャラに憑依してしまえば効率よく攻撃できる。
ディフレクトを複数回成功させてブラッドタイムに入ると、他のキャラクターに憑依するほど制限時間が伸びる(そのブラッドタイム中に憑依済みだと効果なし)。しかも憑依されたキャラは手近な目標を勝手に殴るので、ブラッドタイムになったら手当たり次第憑依しまくるのが基本。
自キャラにスーパーアーマーが欲しい人はベティのインドミタブルを使うといい。ベティはヘルスタブ(血溜まりから攻撃するスキル)もかなり有効。数回殴ってヘルスタブで大ダメージを与えられるので、ボス戦でも集団戦でもけっこう使える。
エドのバーニングエッジがとにかく強い。最大強化すると攻撃力が2倍になる。エドを同伴してると他のキャラでも使えるようになるのも良い。ベティのインドミタブルと重ね掛けすると最強。
ジュリー、ドニ、トゥリが覚えられるリバイブエンハンスは、最大強化すると倒れている人に憑依するだけで起こせるようになるので便利。
難易度Nightmareはかなり極端なバランスで、このゲームにかなり慣れていないと難しい。最初はNormalかHardがいいかも。Easyだとかなり簡単になります。
そんな感じで、万人受けするゲームではないかもしれませんが、一味違うゲームがやりたいという人には、『野狗子: Slitterhead』は一度プレイしてみるだけの価値はあると思います。各プラットフォーム向けの体験版も公開されましたし、Steam版やPlayStation版は30%オフになっているので(1/6まで)、今のうちに是非。
