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アダルト・チルドレンが抱える生きづらさについて考える#1



「何をやっても不快な顏をされる」「理不尽なルールを強要される」「激しい夫婦喧嘩が繰り返される」「突然怒鳴られたり大切にしている物を勝手に捨てられる」「尊厳を否定されたり拒絶される」「過度な期待をかけられ続ける」……などなど。

家庭という閉鎖された空間の中で、心理的な安全性や自己の尊厳が脅かされるような子ども時代を過ごすと、大人になって経済的には独り立ちできたとしても、心理的には子ども時代の「息苦しさ」「しんどさ」を抱えたまま、現実世界にうまく適応することができない自分に悩み苦しむ人がいます。

そうした人たちを「アダルト・チルドレン(AC)」と呼ぶことがあります。

今回はマンツーマンの相談を受ける中で、とても多い「アダルト・チルドレン」をテーマに、その生きづらさが何から来ているのか、考えてみたいと思います。


アダルト・チルドレンという概念


アダルト・チルドレン(Adult Children of Alcoholic)は、「子どもの心を持った大人」という意味ではなく、Alcoholicという言葉のとおり、

元々はアルコール依存症の問題を抱えた家族がいる家庭の中で幼少期を過ごしてきた影響で、大人になって社会生活を営む上で困難な心理的問題を抱える人々を指す言葉

でした。

現在は、アルコール依存症に限らず、

機能不全家族のなかで育ったことによって、大人になって社会生活を営む上で困難な心理的問題を抱える人たち(Adult Children of Dysfunctional Family)を指す言葉

として使われています。
※アダルト・チルドレンは診断名や病名ではなく、あくまでも「概念」として扱われています。

「機能不全家族」とは、

本来は子どもにとって安全で安心できる場所であるはずの家庭が、そうした機能を健全に果たせていない状態という意味で、例えば身体的・精神的虐待が起きていたり日常的に心理的に追い込まれるような状態を指す言葉

のことで、幼少期に機能不全家庭で育つと大人になってもその悪影響が色濃く残り、それが息苦しさ、生きづらさを生み出しているとされるのが、アダルト・チルドレンという概念の核と言っていいでしょう。


近年では「親ガチャ」なる言葉もありますが、子どもはどんな家庭に生まれたとしても、その家庭の中でなんとかして生きていかなくてはなりません。

それはたとえば、親の機嫌を悪くしないように「親が望むいい子の自分」を作り上げる一方で自分の欲求を抑え込み自己犠牲を払うことなのかもしれないし、「自分を透明化」することで自分の身の安全を確保することかもしれません。

いずれにしても

子どもらしいのびのびとした経験をすることができないことで発達の過程でなんらかの課題を抱え、そればかりか、状況に過剰適応することを余儀なくされることで、過剰適応のパターンが体に染み付き、それらによって大人になっても悩み苦しめられている人々

がアダルト・チルドレンと言い換えることができるかと思います。


アダルト・チルドレン6つのタイプと共依存などの悩ましい特徴


アメリカのセラピスト、クリッツバーグは、アダルトチルドレンとなった人々が、子ども時代に機能不全家族のなかでどのような役割を担わされていたかについて特性によって6つのタイプに分類しました。

もちろんそれぞれの置かれている環境や個性によって、必ず6つのいずれか(あるいは複数)に当てはまるというものではなく、個別に見ていけば分類はもっと多岐にわたると思います。また、アメリカの社会文化的背景をベースとしたタイプ分類のため違和感を感じる部分もあるかと思いますが、「自身がどういった役割を無意識に担わなければならないという強い思い込みに縛られているのか」を理解する上では役に立つかと思います。


・ヒーロー(hero / 英雄)タイプ

ある分野(学業やスポーツなど)において世間的に評価をされる子どもの役割を担うことで、家族内にある問題から目を逸らそうとするタイプ。
親(養育者)の期待に応え続ける中で「もっと頑張らなければならない」と強迫的に思い込んでしまう。
挫折感を味わったときに一気に燃え尽き、これまで避け続けてきた様々な問題が一気に露呈する。

・スケープゴート(scapegoat / 生贄)タイプ

ヒーローの裏返しの役割を担うのがスケープゴートです。
自分が悪役を一手に引き受け「この子の問題さえなければ」と思わせることで「家族の真の問題」から目を逸らそうとするのがこのタイプで、特に問題を起こしていなかったとしても「悪い子」のレッテルを貼られ、犠牲になる場合もあります。
ある意味、家族が向き合うことを徹底的に避けている問題の「ゴミ処理場的」な存在になっているといった側面もあります(故の生贄です)。
また、本来家庭が解決しなくてはならない問題を自分の問題にすり替えることもします。

・ロスト・ワン(lost one / いない子)タイプ

家族の中のみならず社会的にも、目立たない空気のような存在になる生存戦略を取るのがこのタイプで、家族の中でも話題に上ることもなく、極端なことを言えば「いなくなったことにも気づかれないような子」として振る舞うのがこのタイプです。
機能不全家庭の中で「自分の考えを持つこと」「自分の意見を言うこと」は得策ではないという経験を繰り返すことで、まるで意志を持たない存在であるかのように自己主張をしなくなります。
また、自ら「いない存在」として振る舞うことで、社会的にも「いない存在」として扱われてしまうという自尊心を引き下げる負のループから抜け出せなくなります。

・プラケーター(placater / 慰め役)タイプ

家庭の調和を図ろうとして、いつも家族の顔色を伺い神経をすり減らしているなだめ役を担うのがこのタイプです。
後述する「イネイブラー(世話焼き)」のように、困っている人のために積極的に自らアクションを起こすのではなく、あくまで愚痴や困りごとの聞き役に徹したり、慰め役として動くのがこのタイプです。
家族の関係をできるだけ良好に保つという役目を担う側面もありますが、自分自身が非難や虐待に巻き込まれないようにする防衛的な側面もあります。

・クラン(clown / 道化師)タイプ

「ひょうきん者」として、前述した「プラケーター(placater / 慰め役)」とは違った形で場の空気を和ませたり、問題から目を背けさせようとするのがこのタイプで、家庭内の事情を何も知らない第三者から見たら「陽気」で「ポジティブ」な存在に見えるのがこのタイプです。
とはいえ、この「陽気さ」「ポジティブさ」はあくまで家庭内の重苦しい緊張感をどうにかして緩和させるための苦肉の策であり、本人が主体的に振舞っているわけではありません。
そのため、本来の気質(個性)とはかけ離れていることもあり、そうした場合、強いストレスに晒され続けることになります。
また一貫した自己認識(アイデンティティ)を持つことが難しく、青年期以降に「自己の不存在」で悩むことも多くなります。

・イネイブラー(enabler / 支え役)タイプ

前述した「プラケーター(placater / 慰め役)」がアクティブになったタイプと言えます。
たとえば積極的に幼い弟妹の面倒をみたり、ダメな父親にかわって母親のケアをするなど、「親の責任を自分が果たさなければならない」といった役目を担うのがこのタイプで、このタイプは後述する「共依存」になることも多いと言われています。

イネイブラー(enabler)は、「世話焼き人」などと訳されることもあり、問題行動を陰で助長している身近な人のことを指す言葉としても使われます。

たとえば、表向きには夫のアルコール問題やギャンブル問題で悩み苦しんでいるように見える妻が、夫の抱える問題をあれやこれやと献身的にサポートすること(お酒を工面したりお金を工面したりなど)で、実は自分の価値や評価を上げようという思惑(無自覚)で世話を焼き、そうした世話焼きが結果として問題を悪化させている時、この世話きをする妻のことをイネイブラーと呼び、イネイブラーの行為をイネイブリングと呼びます。

イネイブラーは、他の家族や他人の世話を焼くことで、表面的には問題を解決するように奔走しているのですが、内心では自分の人生と向き合うことから逃げるために家族の問題を隠れ蓑にしているという側面もあります。

しかしイネイブラーのこうした行動は、問題を起こしている本人の問題行動を助長してしまう側面もあります。
例えばアルコール依存症の家族がいる場合、お酒が原因で起こった原因や失態を、イネイブラーが変わりに解決することでアルコール依存の本人は、お酒の問題の責任を重く受け止めなくなるといった具合です。

また、イネイブラー自身も家族が抱える問題について、意識的には「どうにか改善してほしい」と思いながらも、家族の抱える問題が無くなってしまうと自分の存在意義が無くなってしまうのではないかといった恐怖を感じ、相手の自立を阻むサポートを止めることができず、それは後述する「共依存関係」に陥りやすくなります。


ここまで6つのタイプについて見てきましたが、それ以外の悩ましい特徴についても見ていきたいと思います。

・共依存

共依存の関係とは、「問題を起こしている本人」と「それを支えている人」がお互いに依存し合い、その状態が維持され続ける状態です。

共依存は、互いの責任の範囲などを決めて、お互いが自分にできることで主体的に助け合うといった健全な相互依存(相互協力)関係とは違います。

・相手に自分を頼らせるように仕向け、それによって相手を支配しようとする人
・支配しようとする人に頼ることで、相手の自由を奪い拘束しようとする人

こうして、互いにコントロールし合う負の依存関係が共依存です。

共依存状態では、お互いに相手のエネルギーを奪い合うため、両者ともに内心では疲弊しているのですが、それでも依存関係を解消しようとはしません。

こうした共依存関係を生み出す心の背景には、相手を思い通りにコントロールすることで満足したいといった不健全な支配欲、歪んだ自己愛、傷ついた自尊心などがあります。

アダルト・チルドレンの人が抱える問題の一つに、家族のトラブル事には巻き込まれたくないと思いながらも、大人になってもその役割を自ら無自覚に果たし続け疲弊するというのがありますが、そうした状態も一種の共依存状態と言えるでしょう。

また、共依存に無自覚なままでいると、自分の価値評価や人生の重大な決断を他人に委ねることが多くなり、何かと他人に振り回され傷ついたり、恋愛や結婚など相手との関係性が強くなるに従って、依存状態も強くなるなど、悩ましい関係に自ら突入していくことを繰り返す特徴があります。


他にも、アダルト・チルドレンの人は嗜癖(しへき)行動を起こしやすく、たとえば「過食嘔吐」「違法薬物」など、身体的・精神的・社会的に自分にとって害になることがわかっているのに、それをやめることができずに苦しむといった特徴もあります。


とはいえ、不健全家庭の中で幼少期を過ごしたとしても、前述したようなアダルト・チルドレン的な特徴を身につけない人ももちろんいます。

人には向き不向き、強み弱み、好き嫌いといった個性があるように、たとえ不健全家庭で育ったとしても、その環境に比較的適応しやすいという個性を持った人もいれば、逆に一般的な家庭の中で育ったとしても、物事を過度に悲観的に受け止めてしまう気質(個性)を持っているなどしたせいで悩み苦しむ人もいます。

そう観点を踏まえ、アダルト・チルドレン的な状態になる原因は「すべて家庭環境のせい」「すべて親(養育者)のせい」と言うつもりはありません。
だからと言って、「大人なんだから自分のことは自分でなんとかしなきゃ」と、自己責任で全て片付けようとするのもあまりに乱暴な議論に思います。

一つ言えることは、いくら責任の所在を過去に求めても、現実世界の中で悩みを抱え苦しんでいる状況は何も変わらないと言うことです。

とは言っても、解決方法を検討する上では、

・親(養育者)にどんな接し方をされてきたのか?
・家族の中でどんなポジションだったのか?
・それに対してどんな反応をすることでサバイブしてきたのか?

など、不健全な養育環境の中でこれまでどんな反応パターンを体験的に身につけてきたのかをメタ的(第三者的)に振り返る必要はあります。

過去を振り返る目的は、問題の責任を親(養育者)や環境に転嫁することで悩ましい現実から目を背けるためではなく、現実世界の中でこれからどのように生きづらさ、息苦しさを解決してけばいいのかを検討するための情報を整理するといった未来志向である点をしっかりおさえた上で、次の「アダルト・チルドレンという概念について考える②」も読み進めていただければと思います。


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