自分らしく生きるためのセルフコミュニケーション分析と改善のヒント#5「ダブルバインドの呪い」
これまでの人生、周りに振り回されてばかりの「他人軸」のしんどい毎日を送っていたとしても、心の中の自己対話(セルフコミュニケーション)を見直すことで自分軸に軌道修正できるということをコンセプトに、シリーズでお届けする記事の5回目です。
自分の古い殻を脱ぎ捨て、もっと自分らしく生きていきたいのに、なかなか思うように思考も行動も変えられない……
そう感じるとき、「ありたい自分」を探求したり新しいことにチャレンジするよりも、これまで親からどういうことを教わってきたのかを一度しっかり探求し、内面化した親の信念・価値観を明らかにすることに取り組んだほうがスムーズに古い自分の殻を破りやすかったりします。
特に、自分の意志とは関係なく「なぜかいつもバットエンドに向かってしまう」というジャンル(恋愛・友達関係・仕事・夫婦生活など)が明確になっている場合は、そのジャンルについて「親からどんなことを教えられてきたのか?」をしっかりと振り返ってみるのはおすすめです。
ということで、今回の自分らしく生きるためのセルフコミュニケーション分析と改善のヒントは、親に刷り込まれた呪いのコミュニケーションパターン「ダブルバインド」についてのお話です。
◉ダブルバインド(二重拘束)とは?
両立することが難しい二つの矛盾した命令(期待・指示)によって、どちらを選んでも不安感や罪悪感などの心理的ストレスを感じる状態に相手を陥れ、心理的に束縛することをダブルバインド(二重拘束)といいます。
たとえば親が子に対して、「もっと大人しくいい子にしなさい! 乱暴なことをしてお友達に迷惑をかけてはいけません!」と叱る。
(ワガママするなという命令)
その一方で、「嫌なことは嫌だって言わないと、おもちゃを取られっぱなしでいつまでも遊べないよ!」と叱る。
(自己主張しろという命令)
大人であれば、二つの命令(指示)がなんら矛盾したものではないことはわかるかと思いますが、子どもの理解力ではそう簡単には理解できません。
そこで命令に従い、友達に「おもちゃを返して!」と訴えてみる。
(自己主張しろという命令に従う)
そうしたら友達とおもちゃの取り合いになってしまい、親から「いいから貸してあげなさい! 本当にケチね!」と叱られる。
(ワガママするなという命令)
このように、どの命令に従っても結局は叱られてしまうという結末を繰り返すと、子どもは混乱して身動きが取れなくなるだけでなく、「無力感」や「自己否定感」を心の中に積み重ねていき、いつしか「諦める」「服従する」「支配される」という被害者的な自己認識(アイデンティティ)を形成するようになります。
もうひとつダブルバインドコミュニケーションのケースを紹介します。
「自分の部屋くらい、自分でちゃんと綺麗にしなさい!」と親から叱られる。
(掃除しろ、散らかすなという命令)
でも、親はリビングが散らかっていても一向に片付けようとしない。
そこで子どもは親に「だってお母さんだってリビングを散らかしているじゃないか!」と抵抗しようものなら、「だったらお母さんがおもちゃを捨てるからね!」と恫喝される……。
子どもからしてみたら「どうして大人は散らかしてもよくて、子どもは片付けなきゃいけないの?」と疑問を持つものの、片付けないことには大切なおもちゃを捨てられてしまう……。
そのため、仕方なく命令に従うのですが、いくら子どもなりに頑張って綺麗にしたとしても、母親の基準を満たすまでまた叱られる……。
そのくせ、母親はリビングを綺麗にはしない……。
こんなふうに、結局、何をやっても叱られるという不快を避けることができない。それでも従わないよりもまだマシという状況が繰り返されると、子どもは「部屋を片付ける」ことを学習するというよりも、「抵抗できない自分の無力さ」の方を学習していきます。
◉ダブルバインドと「反抗期」
こうした内面的な支配から抜け出し、情緒的・精神的な自立を図る儀式に、いわゆる「反抗期」があります。
それまで精神的にも体力的にも「抵抗するだけムダ」だった子どもが、成長に伴って社会的な知恵を身につけ、体力的にも親に抵抗できる状態になることで、親からの一方的かつ矛盾するような命令に、論理的、あるいは肉体的な抵抗を試みるのが反抗期です。
ですが、幼い頃から「どうせなにをやっても無意味」「どうせなにをやっても嫌な目にあうのがオチだ」と無力感にとらわれ、精神的に親の支配下におかれることを受け入れていた場合、反抗期の儀式を通過できないばかりか、年齢を重ねても情緒的・精神的には親の価値観の支配下にいる子どものままで、そこから情緒的な成長が進まず、親に無意識に依存し続けていることがあります。
そうした場合、「他者への不信感」「脆弱な自尊心」「強い被害者意識」「強い被害者意識」「強い幼児的万能感」など、親の価値観支配を乗り越えられないことからくる問題で悩みを抱えやすくなるといえます。
その他のダブルバインドの呪い
また、ダブルバインドの中でも「もっとしっかりしなさい」「それくらい我慢しなさい」「甘えるな」といった自立につながる命令をされる一方で、それと矛盾する過保護や過干渉を受けてきた場合、「自立と依存のダブルバインド」に陥ってしまうケースは少なくありません。
その場合、自立的な思考や行動をしなければと焦る一方で、そんなことを自分がしてはいけないという無意識のブレーキもかけてしまうため、自分が意図した現実からかけ離れた現実を繰り返し体験することになり、最終的になにをしてもムダといった無気力状態になるケースもあります。
他にも大人になって他者とコミュニケーションする際、相手に対して無意識にダブルバインド的なコミュニケーションをしてしまい対人トラブルを抱えやすくなるというのも悩ましい特徴といえます。
◉ダブルバインド癖から抜け出すセルフコミュニケーションのヒント
理由(根拠)もなく動けないと感じたり、罪悪感や無気力さに襲われてしまうという場合、それは無意識に刻まれたダブルバインドに陥っているせいなのかもしれません。
そうした状態に心当たりがある場合、一度
を自問自答し、直感的に浮かんできた答えをノートに書くなどして、刷り込まれた親の命令(価値観)を整理してみるといいでしょう。
ダブルバインドはそもそも「矛盾をはらんだ命令」のため、頭の中だけで考えようとしても、混乱するばかりでなかなか思考の整理が進みません。むしろ考えれば考えるほど、矛盾した命令に混乱し身動きが取れなくなるといえます。
そのためノートなどに「見える化」しながら矛盾を整理するのが、ダブルバインド癖から抜け出す際の基本セオリーとなります。
その上で、次の3つのポイントをおさえておくと、ダブルバインド癖から抜け出しやすいはずです。
ポイント1 矛盾する命令を言語化(意識化)する
「~するな」という命令の裏には、その命令と矛盾する「~しろ」という命令が隠れているはずです(これの逆もあります)。それら2つの命令を言語化(意識化)してみましょう。
明確に言語化するだけで、それらの命令がそもそも同時に実現できないもの、命令自体がおかしいものだということに気づき、ダブルバインド状態から抜けることができます。
ポイント2 「べき論」の選択肢を除外する
ダブルバインド的な思考癖にはまっている場合、自分がAという選択をしようとしたとき、反射的にAとは矛盾するBという別な命令を自らに課し、そのどちらを選んでも良くない結果が待っているとしか思えず、結局身動きが取れなくなっていることに無自覚なケースは少なくありません。
ですがこれは、「Aか? Bか?」と極端に選択肢が狭められているからこそ陥る思考のワナとも言えます。
そこで、AとB以外に、第三、第四、第五と選択肢を増やし、それらの中から自分にとってよりベターなもの、より実行可能なものを選択するプロセスを経ることで、二者択一の狭い思考癖から抜け出すのも効果的です。
なおせっかく選択肢を増やしても、反射的に「自分の選択を周りはどう思うだろうか?」といった自分以外の視線(特に世間の視線)を考えてしまい、結局、いくら選択肢を増やしても選択できずに固まってしまうというケースもあります。
そうしたケースにおいて、世間の視線として主体的な選択を無意識にブロックする考え方に、「~するべき」「~するべきでない」といった思考で選択を狭めてしまう「べき論」があります。
そこで「べき論」的な選択肢は、一旦、増やした選択肢の中から除外し、少し極端に思うかもしれませんが
・好きか嫌いか
・やりたいかやりたくないか
・大切か大切じゃないか
といった、「自分がどう思うか基準」を意識して選択すると、べき論によるブレーキを外しやすいでしょう。
ポイント3 適切な自己愛を育む
先にお話ししたように、親からダブルバインドのコミュニケーションを繰り返された場合、子どもは根拠のない無力感や罪悪感を心に埋め込まれてしまい、その結果、自尊心や自己肯定感が適切に育まれないばかりか、被害者意識が強化されてしまいます。
なにを選択しても、最終的に不快な結末が待っているという経験を繰り返せば、それも仕方のないことといえます。
こうしたダブルバインドからくる思考癖、反応癖を和らげるには、
・毎日3個程度、感謝できることを書く
・毎日3個程度、自分をねぎらうことを書く
・毎日3個程度、少しでも成長できたことを書く
・毎日3個程度、少しでも誰かに貢献できたことを書く
など、適切な自己愛を育む習慣を持つのがおすすめです。
毎日、意識を「感謝」「ねぎらい」「成長」「貢献」に向けることで、自分を大切にする思考癖、反応癖が身につきます。
なによりノートとペンさえあれば、いますぐにでも取り組めるはずです。
ということで、今回の「セルフコミュニケーション分析と改善のヒント」は、親に刷り込まれた呪いのコミュニケーションパターン「ダブルバインド」についてのお話でした。
自分の意志とは関係なく「なぜかいつもバットエンドに向かってしまう」という問題を抱えているとき、その背景には親に刷り込まれたダブルバインドの反応癖があるケースは少なくありません。
今回の記事がそうした悩ましい無自覚の反応癖から抜け出すヒントになれば嬉しいです。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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