高校数学の欠点〜問題集の「解説」の不親切さ
公立高校3年生男子に数学を教えていて感じたことがある。
中間テストのやり直しを一緒にしていたときの話。
彼はいつも真面目で、小学生の時からずっと指導しているのであるが、いかんせん数学の出来が良くない。
これ以上の向上を望むのは酷であるというくらい、限界といおうか、センスといおうか、本人の努力を間近で見てきているだけに、心が痛む。
文系志望なので、数学は「数 I・A」と「数 II・B」だけでよいのだが、特に「数 I・A」が伸びない。
「数 II・B」は、解法パターンを暗記すればある程度は何とかなる。
しかし、「数 I・A」は、基本パターンを覚えたとしても、それらを自分で色々と組み合わせなければならないので厄介だ。
私自身は数学が好きで得意だったので、上記の違いを感じたことはなかったが、数学の苦手な生徒と向き合っているうちに、「数 I・A」の難しさを肌で感じるようになった。
[1]みんなに優しい解説を
高校数学が苦手になる原因のひとつとして、「解説の不親切さ」がある。
今回取り上げる問題の解説にも、文字と式しかない。
いつも塾生には図を描くよう口酸っぱく指導しているが、グラフを扱う問題において、図を描かずに解くことはありえない。
にもかかわらず、式だけで解こうとする生徒が続出するのには、「模範解説」の影響も大きいと考えられる。
ある出版社の編集者に聞いたところでは、彼らも人であるから、やはり「解説は分かりやすく伝わりやすいものを作りたい」という思いはあるらしい。
しかしながら、誌面の都合上、どうしてもスペースが制限され、泣く泣く最小限の情報しか書くことができないそうだ。
彼らの言わんとするところはわからないでもないが、私から言わせるとやはり「本末転倒」である。
「分かりやすさ」と「ページ数」を天秤にかけて、最終的に「分かりやすさ」を犠牲にするというのなら、出版などしない方がよい。
私の座右の書として、細野真宏「本当によくわかるシリーズ」があるが、是非これを見習ってほしい。
このシリーズは、小学生でもわかる平易な表現を用いながら、知らぬ間に東大・京大などの高みへ導く最高傑作である。
最近この本を書店であまり見かけないことが残念でならない。
今どんな本が流行しているのか書店を見て回ると、世の中がよく見える。
表紙がきらびやかだったり、内容が偉そうだったり、外見ばかり目立って中身はさっぱりという本が堂々と売られている。
私たち消費者も真実を見抜く目を養う必要がある。
[2]解説の不親切さと向き合う
話は脱線したが、子どもの「数学嫌い」を助長する原因として、「解説の不親切さ」が挙げられることは言うまでもない。
数学は必ず図形的イメージを頭に描きながら解くべき科目であるので、解説に図がないことはありえない。
(1) においても、ただ単にこの問題の正解を求めるだけならば解説の書き方で良いのだが、(2)以降の問題に発展させる場合においては、図形上のイメージを頭に浮かべる必要があるのであって、それなしには高得点獲得につなげることはできない。
出版社の方々には、本当に数学の楽しさ・面白さを世に広げたいのであれば、ぜひ誌面の刷新をお願いしたい。
(2)であるが、(1) を解くときに丁寧に図を描くと、みえてくることがある。
自分で手を動かしてグラフを描くと、どうしても「グラフG1」と「グラフG2」の関係性が気になり、その関係性が以降で問われるのではないかという予測が立つ。
その予測をもとに (2) の問題文を読んでみると、「グラフG1」が出てこないことに気づく。
この気づきが非常に大切なのである。
この一見難しそうに見えるマーク式問題を短時間で解く上において、「解答の方向性」 を見極めることは非常に大切だ。
ややもすると問題の複雑さに心折れてしまいがちだが、あらかじめ図を描いておくことで、解答の方向性を見失うことなく、希望の光を見失わずに、進むべき最短距離をとることができる。
「グラフG1」と「グラフG2」の関係性が問われるのではないかという予測をもとに臨んだ (2) で、「グラフG1」の記述がない。
単に「グラフG2」の場合分けだけすればよいのだという安心感を持って問題に臨めるのである。
[3]みんなに優しい世界を
このことは、数学の得意な人たちにとっては当たり前のことであり、意識上にものぼらないほどの些細なことであるが、数学の苦手な生徒は、今自分がこの問題をどのようなスタンスで解けばよいのか、全体像の見えない中で暗中模索しながら苦労している。
「単に『グラフG2』の場合分けだけをすればいいんだ !!」という、至極当たり前の見通しではあるが、問題を解く中で、この安心感を持ちながら臨めるかどうかで天と地ほど違う。
「自分で問題をコントロールしている」という安心感をもって取り組めるか、「無理やり問題を解かされている」という焦燥感を持って取り組むかは大きく異なる。
数学の苦手な子どもたちにも、できる限り「数学の楽しさ・面白さ・安心感」を持って取り組んでもらいたい。
そう強く思う。