色を科学する その① 感覚なのに科学できる理由
色は感覚であるのに、なぜ科学の対象になるのか? 「カラーサイエンス」「色彩工学」なんて学問が存在するのか?についてまとめました。
1. 個人差が小さい(と割り切った)こと
他の感覚と比べ、個人差が小さいと考えられ、CIE(国際照明委員会;Commission Internationale de l'Éclairage)が、1931年に、すべてのヒトの感度を代表する「測色標準観測者」と「等色関数(下図)」を定めたことが、カラーサイエンスや色彩工学の発展に大きく寄与しました。
実際には、特に最近、色覚の個人差が問題となっていますが、割り切らないと進まなかったし、今の発展はなかったでしょう。
2. 3次元であること
任意の色光は、3つの原色を様々な比率で混ぜ合わせることで再現できる
これは「色は3次元である」ことを表しています(なぜ3次元か?は過去の記事で)。3次元だと我々の生きている空間と同じなので、想像しやすく、数学的にも(ギリギリ)扱い易いのです。
1次元である重さや長さと比べれば面倒ですが、他の感覚と比べるとまだましなんです。味覚は5次元、嗅覚はものすごく次元数が多い(数百種類のにおいセンサーがあるといわれている)ので。
表色系が「色空間」と呼ばれるのも3次元だからですね。
また、↓この理論は、ヒト(標準観測者)には同じに見えるだけで、分光特性の一致までは保証していません(基本的にまず一致しません)。
任意の色光は、3つの原色を様々な比率で混ぜ合わせることで再現できる
つまり、条件等色(メタメリズム)のことで、分光特性までも厳密に一致させなくても同じに見えるよ、ということです。
分光特性は、10nm(ナノメートル)毎に考えてたとしても、380-780nmで41次元もあるので、これらが3次元に集約されていることになります。
3. 連続性や等価性があること
連続性とは、混色するときに原色の強度を連続的に変化させると、我々の色の知覚も連続的に変化する、すなわち、色の感覚も連続値をとるということです。こうでないと数学的に扱えないのですね。
等価性には4種あります。
A、B、C、Dという4つの色(光)があったときに下記①-④が成立するということです。
①A≡B ならば B≡A である(対称則)
②A≡BかつB≡C ならば A≡C である(置換則)
③A≡B ならば、αA≡αBである(比例則)
④A≡BかつC≡D ならば (A+C)≡(B+D) である(加法則)
ここで、「≡」は同じ色に見えている、つまり「等色」している、ことを表す記号です。そしてこの式を「等色(方程)式」と呼びます。まさに数学ですね!
連続性および等価性の①-④は数学公式としては当たり前な気がしますが、色が感覚であることを考えると、成立すること自体が奇跡とも考えられます。
以上は「3次元であること」も含め、ドイツの数学者、グラスマン(Hermann Günther Graßmann)による「グラスマンの法則」です。グラスマンは線形代数の基礎を作った人で、色彩工学でも、色をベクトルとして扱いますね。