メディカルトレーナー?フィジカルトレーナー?からの、スポーツトレーナー?
先日朝、目が覚めてSNSをチェックすると、以下の記事が紹介されていた…
この先生、大変有名な方で、面識はありませんが、お名前はよく存じております。さて、この記事を読んでいろいろ思う事がこの日の午前中、頭をめぐって止まらなくなったので、それについてつらつらと書こうと思う。
まず、「スポーツトレーナー」の呼称については、はっきり言うと広告代理店(あるいはコンサル)が高校生の目を引くための言葉として作り上げて養成校に提案してできた造語で、現場で働く関連職種の人達には本来責任はない、はずなんだけど、この記事で書かれているように、ストレングスコンディショニング(SC)系の資格(CSCSなど)を持たない他の資格の人(医療系であることが多い)が現場に出ようとして利用するケースが増えてきて、悪目立ちしはじめたんだと思われる。
特に医療系の人からしたらSC系の資格なんて国家試験でもないしそれ専門の学部学科に入る必要もない、と舐めているケースが多くみられる(これまでの自分の周囲では)からでもある。そこで冷静になって「養成の基準が自分の資格の方が高いだけであって、SCについての専門分野については正しく教わっていない」と気づいた人はそれからでも資格を取得する(僕の知る人の中には医師がCSCSを取得したケースも)が、
気づかないままSC的な仕事を長く続けて経験値が高まって…なケースの方がほとんどだ。かくいう僕も柔整とATCでCSCSは持たずにSC的な業務をこなしてきた時期がある。一応CSCSを受験するのに必要な科目は全て受講し、SC系の知識のアップデートもしているがCSCSではない。その分ATC的な予防としてのエクササイズを中心に選手たちに指導(雇う側は物足りないと思う部分もあっただろうけど)してきた結果、雇う側が僕のATCとしての側面を求めるようになったという経緯はある(その辺の経緯については以下のリンクで…ここがこの商売のキモだと感じているので有料ですが…)。
雇う側は「怪我の予防」と言われても「なぜそれにカネをかけないといけないの?」なことが多いが「強化」といわれると「ぜひ!」となる傾向はある。その「強化」(もできますよ)という雇い主へのアピールが、「SCの領域に足を突っ込む医療系有資格者」に「スポーツトレーナー」なる呼称を使わせるのだろう。
この医療系有資格者の「現場に出たい」欲は非常に前のめりになりがちで、「スポーツトレーナー」になるためにそれら医療系資格を取ろうと養成校に入学してきた時からものすごい角度になっている。1年目や2年目の学生がやたら「母校の野球部のトレーナーです!」とか「XX高校サッカー部のトレーナーです」と前のめり具合を競いあう、その前のめり具合を僕のような教員にアピールしてくるというびっくりな状況もたまにあるけど、それはそれを褒める教員がいるからだろう。教員なら「それって誰が君を指導してくれるの?」と釘を刺してほしいのだけど、「そうだそうだ、オレもそうやって現場をゲットしてきた」となるのだろう、もう2020年代なんですけどね…。
そのせいだと思うが、なんと「モチベーションビデオの作成」なんて本来スポーツ心理学の専門家がやるような仕事を「学生トレーナーの仕事」だと思い込んだり、それに留まらず、チームの指導者(監督・コーチ)の負担を軽減することならなんでも「それ、トレーナーの仕事です」と引き受けて現場に媚びてきた結果が今であって、この記事を書かれた著名な先生が「AT(メディカル)とSC(フィジカル)は別の専門職なのでそれぞれ別の人を雇いましょう」と言っても、現場はもう一人「守備・走塁コーチ」とか、そのスポーツの指導者を増やしたいから、ATにSCの仕事、あるいはその逆をさせてしまう。
確かにMLB球団では長いこと、1軍(メジャー)以外ではATがSCの役割を兼業させられてきたが、今は2軍(AAA)から6軍(ルーキー)までATとSCの2名体制にほぼ移行した。それは現場の声が経営者を動かした結果であって、そこまでの諸先輩方の血の滲む努力が背景にある。下からの意見を吸い上げて、上がしっかり動く、そして、選手の側も選手会を通じて、球団経営陣にしっかりと意思表示する文化的背景も考えなければなるまい。ATもSCも元はと言えばアメリカ発祥の資格だしね…。
トップに立てば下の言うことは聞かない、お上が決めたことに下々は黙って従う、が美徳のこの国において、「監督」がトレーナーを雇う、監督に「GM」的な仕事が与えられてしまっているプアなスポーツマネジメントの仕組みが改善されない以上、ATやSCが声を上げても、なかなか響かないよね、と、長くなりましたが思ったわけです。