結美と付き合い始めて季節がいくつか過ぎた。 最初は僕の鈍感さや、女性慣れしていないところに結美が腹を立てることも多かったが、最近はそれも減った。 お互いを理解して、上手く付き合える距離感やお互いの長所と短所を心得てきたんだろうと思う。 秋のある日。僕は結美から学園祭に誘われた。 結美の通う大学の学園祭は冬に行われる。 僕はお誘いを受けて、見に行くことにした。 結美はピアニストとして発表会もやりつつ、組んでいるバンドでドラマーとしてもライブを行うらしい。 ピ
スケッチブックにふと影がさした。 顔を上げると、目の前には今まさにスケッチしていた女性が立っていた。 顔にかかる長い黒髪を耳にかけながら、彼女は優しい眼差しで僕に言う。 「絵、見せてもらえる?」 僕は驚きと、いたずらを見つかった子供のような面映い気持ちを抱きながら、恐る恐る彼女にスケッチブックを渡す。 ありがと、と彼女は言って、僕の前に膝を折ってしゃがみ込み、スケッチブックをめくり始めた。 心臓がバクバクいっている。 どうしよう。今すぐ適当な理由をつけてス
三秒だった。 私がそれを告げると、隣の竹内祐介はゆっくりと顔をこちらに向ける。 「何が?」 あからさまに落ち込んでいる声音で質問される。私はにっこりと笑って答えた。 「ため息の長さ」 「今の?」 「うん」 「計ってたの?」 「うん」 「どうして?」 私はふと考える。なぜ彼のため息の時間など計ろうと思ったのだろう? 胸がちくりと痛む。 答えなんかわかりきっているだろう? という主張。 うるさい、黙って、と胸の中の私に言い聞かせる。 「今日、ため息ばかりつ
(あらすじ) 雪山で眠りに落ちる寸前、ナキアは誰かの気配を感じ取る。 目を開けると、そこには見たことのない少女が立っていた。 ナキアは眠気をこらえながら、少女に身の上話をする。 話の最後で、ナキアは少女に最後の願いを託す。 願いを聞き届けたビオラと名付けられた少女は、吹きすさぶ雪の中に姿を消す。 そして幾星霜が過ぎ去った春の日。 誰からも忘れられた山の洞窟の近くには、小さな紫色のスミレが一面に咲き誇っていた。 眠りに落ちる瞬間、ナキアは何かの気配を感じ取った