DAMで改善する見えないコスト【150時間x社員数のロス】
こんにちは。嵯峨です。
なかなか記事を書く機会が作れませんでしたが、最近DAM(デジタル資産管理)について勉強する機会が増えたので、自分の理解を確認する意味でもまとめておきたいと思います。(⚠️少し長いです)
DAMとは何か
DAMとはデジタル資産管理またはDigital Asset Managementの略です。Googleで検索するとカラオケのDAMが最初に出てくるので、まだ一般的な認知度は低いと思いますが、企業の広報やマーケティング担当者は耳にした事があるのではと思います。
DAMは一言で、写真や動画などのデジタル資産を保存する倉庫です。
資産というと大袈裟に感じますが、簡単に考えるとオンラインで管理しているデータです。皆さんのPCにもローカルのフォルダ毎に保存されていると思いますが、DAMは企業として複数の関係者がクラウド上の共有フォルダを活用できるイメージです。
デジタル資産とは何を差しているか
写真や動画と一概に言っても、フワッとしていると思いますので、具体的な例を挙げると以下が対象となる事があります。
素材と呼ばれるアセット(ロゴやパーツ、背景画像、商品写真、テキスト、PowerPointテンプレート、フォント、音声、動画)
素材を掛け合わせて作られたコンテンツ(バナー、サムネイル、ブログ、カタログ、パンフレット、動画)
会社として「◯◯をする時はこれを使ってください」といったルールがあるものがDAMで管理されます。特に社外向けに発信するもの(ウェブサイト、営業資料、オンライン/印刷カタログ、広報活動)が軸となります。
DAMで出来ること
昨今はDAMを提供する会社が増えてきています。後に触れますが、DAMとコンテンツは強い関係性があるため、コンテンツを管理する為のシステム(CMS)を提供している会社がDAMも一緒に提供している事が多いです。それぞれ出来ること、出来ないことにも差がありますが、私が理解した中で大きく分けて4つのポイントをご紹介します。
検索性を向上する
管理が行き届く
制作プロセスが素早くなる
共有範囲が広がる
1. 検索性を向上する
DAMがない企業では、例えば社長の宣材写真が必要になった時、クラウドストーレージと呼ばれる所(BOXやGoogle Driveなど)に管理されている事が多いはずです。担当者はそこから社外用フォルダ→広報用フォルダ→役員写真→社長の写真といった形で写真を探します。
この様に写真が「どこに」あるのか簡単に分かれば良いですが、これが数千点ある中から1つの商品の写真を探すとなったらどうでしょうか。自分の携帯の写真フォルダでさえ、数百枚の中の1枚を探すのに手間が掛かる中で、各商品の写真が数十枚ある場合だと更に困難です。フォルダを作ったのが各部門の担当者の場合はフォルダ分けのルールも若干異なる事もあり、迷子になります。平均して社員が仕事中に探し物をしている時間は150時間/年(リズ・ダベンポート)と言われています。100人の広報+マーケティング+営業関係者が居たら625日/年のロスです。
DAMがある場合、Google検索の様に検索欄で商品名を打てばDAM内で管理されている全てのデジタル資産から関連したものを絞り込み出来ます。そこから更に写真というカテゴリで絞り込んだり、2019年という販売期間で絞り込んだりする事で、無数にある写真の中から必要な写真を確実に探す事が可能です。
これはデジタル資産1つ1つにAIがキーワードをタグ(メタデータ)するサポートが出来るため、写真のような文字になっていない素材でも「車」であったり、「赤」であったり、「青空」といったキーワード検索を可能にしています。DAMにアップロードする際に商品名などの特定のキーワードも付ければ、固有名詞検索も可能になります。
またカテゴリ分けも出来るので大きなカテゴリから小さなカテゴリへ、フォルダの様にクリックして探すことも可能です。
これだけでも費用対効果が見込めそうです。
2. 管理が行き届く
DAMに保存されるデジタル資産の全てを社員が自由に検索して使えるということは「誰が」「何を」活用できるか管理する必要もあります。担当外の社員が勝手にデータを消してしまった。。。既に販売されていないカタログをダウンロードしてお客様に渡してしまった。。。などは避けたいです。
DAMでは大きく「人の管理」と「デジタル資産の管理」が可能です。
人の管理では、管理者/ユーザーといった形で出来る事の制限が可能です。「部門ごと」や「役割ごと」で検索結果に表示される写真や、ダウンロードは出来るけどアップロードは出来ないなど、DAM内のデータ管理を徹底出来ます。この機能を上手く使えば、制作会社やカメラマンの様な社外の人とのデータの受け渡しもメールではなくDAM内で完結出来ます。
デジタル資産の管理では、既にアップロードされていたデータの重複確認ができる為、同じもの(無駄)なデータで容量が嵩むことを防げます。また既にあるものは検索で探す事が出来るので、作成済みだけど見つからなかったから作成し直す、といった無駄も削減できます。また、個々に編集履歴を確認できるVersion管理や、既に販売終了している商品の写真はダウンロード不可にするなどアクセス管理も可能なため人的ミスを削減できます。
3. 制作プロセスが素早くなる
制作プロセスとは、素材からコンテンツを作成する時に発生するヒト、モノ、カネの流れです。
例えば、簡単な制作プロセスの例として、以下の関係者が関わります。
・新商品の発売のために写真を撮り企業に納品するカメラマン
・写真を集め企画をまとめるプロジェクトマネージャー(PM)
・コンテンツを作成するクリエイター/デザイナー(社外の可能性あり)
・作成されたコンテンツの確認を行い承認するPM
・完成したコンテンツを公開し管理する各マーケティング/IT担当者
この一連の流れは、複数の人とシステム、コミュニケーション方法が混在します。写真などの素材はクラウドストーレージに管理され、コミュニケーションはメールやチャットツールのように社内外の人と異なるツールが使われます。コンテンツ作りはAdobe CCなどで行われますが、作業の度に大容量データをダウンロード、修正依頼は印刷した紙の上にペンで行うといった場合も未だにあります。そのため関係者は色々なツールを行ったり来たりし、作業場所に一貫性がない状況が続きます。
1つしかプロジェクトがなければ良いですが、イベントの時期などに複数の新商品のコンテンツ作りを同時に展開する場合は「どこに何があって」「いま誰が何をしているのか」状況把握だけでも大変です。こうした課題を解決する為に、DAMには制作プロセスを管理する機能が備わっている事が多く、コンテンツに関わるプロジェクト管理ができます。
・カメラマンの納品→DAMに直接アップロード可能。
・複数の写真を集めて企画をまとめる→DAMで可能。
・コンテンツを作成する→DAMからAdobe CCを直接展開可能。
・コンテンツ確認と承認→DAMで可能。
・コンテンツの公開→DAMからCMSやMAなどに直接展開可能。
4. 共有範囲が広がる
ウェブチームが作成したコンテンツはウェブサイトのみの公開され、なかなか他部門や他チャネルへ展開することも、縦割りの会社では良くある話です。そのため隣のチームであっても、コンテンツがある事を知らないので、似たようなコンテンツ作りにコスト(制作会社に頼んだり)が掛かります。
一方でDAMのように横串の共通基盤があれば、作成されたコンテンツの利活用を他部門でも設定されたルールの元で行えるほか、1つのキャンペーンを同時に複数のチャネルから発信する際の工数や時差もなくなります。既にあるコンテンツを使うことだけで、キャンペーンの市場投入時間は大幅に削減されます。
重複する作業やコストを削減し、持っている素材や作成されたコンテンツの活用機会を増やすことで、デジタル資産の価値を高めることが可能です。
連携することで作業を効率化できるツール
今や企業では様々なツールが既に活用されていると思うので、DAMと連携出来る活用イメージをいくつか挙げてみます。
クラウドストレージ
One Drive、BOX、Google Driveなどを始めとするクラウドストーレージ(CS)ですが、CSとDAMを連携し事前に設定しておくことで、CS内の特定のフォルダにULされたアセットを自動的にDAMにシンクする事が可能です。特定のCSしか受け付けていない制作会社やカメラマンなどと作業を行う時に有効です。
クリエイティブツール
Adobe Creative Cloud(ACC)、Canvaなどのコンテンツ制作、編集ツールとも連携が出来るため、アプリ内で素材となる写真などを読み込むライブラリとしてDAMから直接拾ってくる事が可能です。
コンテンツ管理システム
ウェブサイトの製品写真やキャンペーンで活用するバナーなど、必要な素材やコンテンツを予めDAMに保存しておくことで、コンテンツ管理システム(CMS )内でDAMから直接ページに素材を差し込むことが可能です。また素材固有のURLをリンクとして埋め込むことができるため、素材の活用先を可視化することも可能です。
マーケティングオートメーション
メールやSNSへの投稿に関してもCMSと同様にツール連携をすることで、わざわざ素材をDLしてMAに読み込む必要はなく、MAから直接必要な素材やコンテンツをメールやSNS投稿に添付することが可能です。1つのコンテンツをマルチチャネルで活用する手助けとなります。
社内コミュニケーションツール
DAM内で複数の関係者とチャットを行うことも可能ですが、SlackやTeamsをはじめとしたコミュニケーションツールと連携することで、社内に浸透した方法でリファレンスや情報共有を行うことも可能です。例えば、新しいキャンペーンでメール用のバナーが出来た際に、営業チームと共有することで活用推進を行うことができます。
DAMのメリット、デメリット
DAMを導入されている企業では、主に3つのメリットを期待されています。
コスト削減の観点では、検索性の向上などから人件費の削減(見えないコスト)を得る部分と、部門ごとに活用している異なるツールを1つに統合する事で生まれる各契約・運用費の削減(見えるコスト)を見込めます。
コンテンツの増強を行いたい企業では、DAMを活用することで、コンテンツ制作の工数の効率化、1度作成したコンテンツの再利活用のシーンを増加を見込めます。
システム連携においては、素材やコンテンツを外部へ展開する際の工数を削減すること、展開後のコンテンツの管理(掲載、非掲載など)を徹底することが可能です。
一方でデメリットとしては、DAMを導入することで業務プロセスを見直し、DAMを軸とした運用体制を社内に浸透させる必要があります。また、DAMはあるだけでは意味がないので、マーケティングチームはもちろん、他の社員の活用推進も行う必要があります。例えば、会社のロゴを営業がPPTで活用する際、Googleで検索せず、DAMで検索して活用することを徹底するなど。
DAMが必要な会社とは
最後に、どんな会社が費用対効果を得られるのかという点です。
主にDAMは、アセットの量が多ければ多いほど効果を発揮します。アセットが多くなるシーンとしては主に以下の要素が関与します。
商品数が多い
→単純に商品数 x アセット数 +αになるため発信先が多い
→発信するチャネルに最適化されたコンテンツ作成が必要なため関係者が多い
→アセットが活用されるシーンが多くなるため
特にB2C、B2B問わずにECサイトを運営されている企業や、季節などに合わせたキャンペーンなど日常的に新しいコンテンツ作成を作成し続ける企業はDAMに魅力を感じ導入されており、今後検討される場合もおすすめです。
消費財、自動車メーカー
→商品本体ならびにパーツなどのカタログやプロモーションを一般消費者や販売代理店へ展開メーカーの販売代理店会社
→数千〜数万店の商品を扱うECサイトの運営や各種SNSや広告、チラシなどへのコンテンツ展開金融
→ターゲットペルソナに合わせた商材カタログや広告の作成、他部門(預金と投資など)との連携したプロモーションの展開
最後に
DAMはまだまだ日本市場には浸透しておらず、ファイルサーバーやクラウドストレージにやっと馴れた企業が次のステップとして検討を始めている印象です。どの企業も似た機能を持っていますが、想定されている活用の用途や規模(1部門内なのか、グローバルなのか)などに合わせて最適な製品を絞り込んでいくのが良いと思います。