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米国商業用不動産が市場に与える影響を考察する ~Part7~
Part6からの続きである。
このような環境下において、商業用不動産ローンのLTV*(融資額÷担保価値)は既に高くなってきており、2023年末時点でオフィス向けが44.6%、商業用不動産全体では14.3%が既に担保割れになっているという。
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※CMBSから抽出されたサンプルを基に作成されたデータ。過去のデータでは、銀行保有ローンとCMBSローンは、デフォルト率など、概ね同様の傾向を示しているとのこと(P6.7より)。
*LTV(Loan to Value):例えば、融資額60億、担保価値100億で、LTVが60%(60億÷100億)の場合、不動産価格が4割下落すると、LTV100%(60億÷60億)となる。逆に言えば、不動産価格の4割下落までは耐えられることを意味する。しかし、LTV100%以上(例:融資額60億、担保価値50億)ということは、不動産の担保価値が融資額に満たないということを意味するため、銀行による貸倒引当金・貸倒損失の計上や、借り手による自己資本の投入でLTVを下げる措置を取るといった、何かしらの対策が必要。
このLTV比率が一定程度通用するものと考えると、銀行が保有する商業用不動産ローンのなかで、オフィス向けが約2,300億ドル*1、商業用不動産全体で4,300億ドル*2がLTV100%以上に、また銀行が保有する商業用不動産ローンは市場の約5割であることから、銀行以外も含む市場では、これらの約2倍(約4,600億ドル、約8,600億ドル)がLTV100%以上となっていると推測してもおかしくはない。
*1:全銀行商業用不動産ローン総額3兆ドル×商業用不動産に占めるオフィス向け市場構成比17.5%×オフィス向けLTV100%以上の比率44.6%で試算
*2:全銀行商業用不動産ローン総額3兆ドル×LTV100%以上の比率14.3%で試算
もちろん、上記の全額が不良債権になるわけではなく、あくまで今後貸倒引当金等の手当てが必要となる対象の資産額がそれぞれ約4,600億ドル(推計)、約8,600億ドル(推計)ということだ。これらは今後NYCBやあおぞら銀行と同様の措置が必要となるはずだが、商業用不動産価格の下落基調が今後も続くと想定すると、ここに記載した数字の何%が最終損失になるか不透明だ。
なお、商業用不動産市場の苦境は、不動産価格の下落や空室率の上昇に伴うキャッシュフローの減少だけではない。もちろん金利が上がっていることも大きな要因だ。低金利時代に借り入れられたローンの多くは、大幅に金利が上昇している環境下で今後借換え時期を迎えていく。
以下(7)列は、今後現在のベンチマーク金利で借換えを行った場合のシミュレーションであるが、DSCR*が1を下回ると想定される割合は、全体で17.2%、オフィス向けで24.3%に、さらに(8)列は、LTV100%以上かつDSCR1未満の割合であり、全体で4.5%、オフィス向けで14.4%になるという。あくまでシミュレーションではあるが、特に(8)は救い難い物件だ。
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*DSCR(Debt Service Coverage Ratio):年間の不動産キャッシュフローを年間の債務返済額で割って計算。1を割ると不動産収入で債務返済がまかなえていないことを意味する。
参考までに商業用不動産全体の影響度シミュレーション金額(試算)は以下となる。
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*1:商業用不動産ローン6兆ドル×17.2%
*2:商業用不動産ローン6兆ドル×オフィス市場シェア17.5%×24.3%
*3:商業用不動産ローン6兆ドル×4.5%
*4:商業用不動産ローン6兆ドル×オフィス市場シェア17.5%×14.4%
※銀行が保有する商業用不動産ローンに限定するとそれぞれ約半額となる。
FRBが速いペースで金利を引き下げていかない限り、融資の借換えを迎える多くの商業用不動産ローンが次々に時間切れとなっていく。時限爆弾が繰り返しやってくるのだ。最終的な損失は、今後の景気後退の程度や当局の対応にもよるため、現時点では想像がつかないが、ここに記載した数値の何割かが棄損し、それに伴い倒産する銀行も増えていくことだろう。
(続く)