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米国商業用不動産が市場に与える影響を考察する ~最後に~

Part7からの続きである。

商業用不動産は、米国市場において株式・居住用不動産・国債に続く市場であり、リーマン・ショックの震源地となった居住用不動産市場(56.4兆ドル)の約4割の規模であることから、決して無視できる市場規模ではないものの、経営危機に陥ると想定されるのは主に中小銀行であることから、これが原因で金融システム全体を大きく揺るがすような状況にはならない。また新しい問題ではなく、対策を練る期間が十分あったのも事実で、サプライズ性にも乏しい。

しかしながら、商業用不動産において、不動産価格の下落は既に始まっており、加えて今後金利の高いローンへの借換えが必要だ。特にオフィス向け商業用不動産は、在宅勤務の増加というコロナ後の就業環境の変化を伴う構造問題のため、解決には長期間(5-10年単位)を要すると同時に、米国だけにとどまらず、欧州(イギリス・ドイツ)、香港などにも共通の全世界的な問題である。

そのような状況下において、監督当局、銀行、不動産市場関係者のいずれも根本的な対策を打ったとは言えず、また銀行の融資態度が厳格化していることも相まって、今後商業用不動産ローンの借換えが思うように進まない事案が増えていくだろう。それに伴い、差し押えや市場売却(投げ売り)が増えれば、商業用不動産価格の下落が進む可能性は高い。

加えて景気後退が鮮明になれば、更なる空室率の上昇から価格下落は一層顕著となっていき、負のスパイラルが始まる。そして市場が期待するソフトランディングシナリオでは終わることが難しくなっていく。

思い切った利下げ、金融緩和ができれば状況は確実に好転する。金利の低下から、相対的な魅力が上がることに伴う不動産価格の上昇と、ローンの借換えの容易さという二つのメリットが生まれるからだ。

しかし、インフレ懸念がくすぶる中、大胆な手が打ちづらいのが近年のリセッション局面とは違う点だ。インフレが落ち着き、利下げペースを加速させられなければ、時間切れとなる可能性がある。そして、ひとたび景気後退が到来すれば、商業用不動産問題が一層拍車をかけ、景気後退はより深刻化・長期化していく。


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