第1回読書会 ヘミングウェイ「キリマンジャロの雪」を読む
メンバー:岩本吉隆、外舘健人、澤井歩
2022年9月9日に徳島市秋田町にあるグランシャトーレインボー「クレイドル」にて読書会を行いました!初回ということで、読書会のメンバーに共通して関心のあるヘミングウェイを読もうということになり、彼の短編集のなかから内容と分量ともに適当な「キリマンジャロの雪」という短編を選びました。この!では毎回の読書会の内容をまとめていこうと思います。
あらすじ
この本の大まかなストーリーについては水石鉄二さんという方がまとめているので引用します。
「ハリー(主人公)は、スランプに陥った小説家で、ヘレン(彼の妻)を連れ、アフリカ旅行を機に再起しようとしている。ところが、旅行中に怪我をした部分が壊疽を起こした。サバンナの真ん中にいるために、すぐに治療も受けられそうにない。彼は死の近きを悟る。ハリーはヘレンに悪態をつきながら、死を想い、己の人生を振り返っていく。小説家としての才能を切り売りしてしまった自分。女性たちとの愛を喧嘩によって無に帰してしまう自分。そのような自分を不甲斐なく思いながら、再起を図る機会の喪失を、諦念を以て受容していく。だが死は迫ってくる。回想する余裕も失せたハリーは、得体のしれぬ死の姿を見る。それはハイエナでも、ハゲタカでも、鎌を持った死神でもない。より抽象的な形をしていた。死は腐った息を吐いて、彼の身体にのしかかる。苦痛とともに。しかしある瞬間に、急に死の息苦しさは薄れる。飛行機は来た。飛行機は彼と妻を乗せ、速やかに発たつ。窓に映るは陽光を照り返すキリマンジャロの山頂。自分はあの高み、孤高の豹が登りつめた高みへ向かうのだ、ハリーはそう思った。しかしそれは幻想であった。死が見せる夢だった。サバンナの真ん中でハリーは既に息絶えていた。ヘレンは叫び、ハイエナは唸る。」
読んでいて印象に残ったところ
まずは、三人の印象に残ったところを紹介します。読書会の醍醐味ともいえますが、取り上げるところが三者三葉で面白いです。
岩本
「「死神が大鎌を持った髑髏だなんて、信じないほうがいい」彼は言った。「そいつは、自転車に乗った二人の巡査かもしれんからな。さもなきゃ、小鳥とか。もしくは、ハイエナのようにひらたい鼻面をしているのかもしれない」」という部分が印象に残ったとのこと。死をテーマにした作品を制作中だったため、参考になったと言っていました。
外舘
「嘘をつくというより、むしろ語るべき真実がなくなってしまった、と言ったほうがいい。一度は彼もひたむきに生きていたのだが、その時期がすぎると、こんどは別の、もっと金持ちの人間たちと、そう、同じ街でもトップクラスの連中や、ときにはまったく新顔の連中とその後の人生を送り始めたのだった」という部分や、その後の「嘘によって生きるなら、嘘に殉じて死ぬべきではないか」という部分が印象に残ったとのこと。小説家としての仕事と自らの人生の間の苦悩が表れているのではないかと言っていました。
澤井
(飛行機にシーンにて)「それから機は上昇に転じ、東に向かって飛びはじめたかのようだった。やがて周囲は暗転し、機は嵐の中に突入した。しばらくは滝のような豪雨をついて飛ぶうちに、嵐を抜け出した。コンピ―が振り返った。にっこり笑いながら彼の指さすほうをみると、前方の視界いっぱいに、さながら全世界のように広く、大きく、高々と、信じがたいほど真白に陽光に輝いて、キリマンジャロの四角い頂上がそびえていた。その瞬間、自分のむかいつつあるのはあそこなのだ、と彼は覚った」という部分が印象に残ったとのこと。ヘミングウェイの自然描写は素晴らしいと言っていました。
ヘミングウェイとエドワードホッパー、二人にとっての戦争
印象に残ったところを取り上げた後、話は様々に展開していくのですが、その中でも今回は、澤井君がヘミングウェイを知るきっかけになったエドワード・ホッパーという20世紀に活動していたアメリカの画家の話を紹介します。澤井君によると、エドワードホッパーの絵の特徴や良さは、日曜の朝のけだるさのようなさりげない(シュールな)絵の雰囲気や背中で語る姿勢、エスキースにこだわるところにあると言っており、ヘミングウェイとは、ある種のハードボイルドな部分が共通していると言っていました。ただ異なる部分として、ヘミングウェイは酒、ホッパーはコーヒーというイメージの違いがあるのではないかということが三人の話題になりました。とても納得感がありますね(笑)。
また、この違いはヘミングウェイとホッパー、それぞれの戦争体験の違いにあるのではないかと話は広がっていきました。詳しいところは不明で誤りもあるかもしれませんが、ヘミングウェイは十代後半に赤十字の一員として第一次世界大戦に参加していますが、ホッパーは戦争に参加したことはありません。戦争に参加せず、戦時中の日常とは異なる街の風景を見ていたことが、ホッパーのシュールな作風に影響を与えているのかもしれません。
終わりに
以上、第1回読書会の内容をまとめてみました。ここでは取り上げなかった話題も多くありますが、今回はこの辺で!
読書会はオンラインでも行えますので、興味があればご連絡ください。
参加費 500円
お問合せ https://iwamoto-studio.com