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349. 「差別は許されない」とすると、かえって「寛容な社会」を阻むのでしょうか?(1)
2023年2月現在、政府与党内では「LGBT理解増進法」について「『差別は許されない』とすると、かえって『寛容な社会を阻む』」という声があるとのことです。
ニュース記事を読んで、「そうかな?」とモヤモヤした気分になった方もいらっしゃるかもしれません。
私は相手に高い商品を売りつける際によく使われる次のような言葉を思い出しました:
「あなたに最近いいことがないのは、運気が滞っているからです。この壺を買って部屋に飾れば、必ずいいことがありますよ。しかし、買わなければ、あなたは不幸になります」
人は精神的に追い詰められた状況になると判断を誤ることがあります。
実は選択肢は2つしかないわけではなく、隠された選択肢がまだあります。
これを「二分法の誤謬」と言います。
選択肢を狭めて、自分の都合の良い選択をさせようとするときに使われる方法です。
壺の話を表にまとめましょう:
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相手の言うことを鵜呑みにすると、選択肢はこの2つしかないように見えます。
しかし、実はあと2つ、選択肢があるのです。
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図2から選択肢3「壺を買っても不幸になる」と選択肢4「壺を買わなくても不幸にならない」があることがわかります。
では、「差別禁止」と「寛容社会」について見てみましょう。
「『差別は許されない』とすると、かえって『寛容な社会を阻む』」という主張は選択肢1です。選択肢2は暗に示されている形になっています。
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これにも隠された選択肢があります。全体的には次のようになります:
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「寛容社会になった方がいい」と考えるのでしたら、選択肢1と4は排除されます。
差別禁止はあってもなくても寛容社会になる可能性はあります(選択肢2と3)。
ではどうするか。
ここで日本の社会で差別問題がどう扱われてきたかを知ることで正解が得られると思います。
アジア・太平洋戦争が終わり、日本は新憲法を作りました。
それまで女性は男性よりも一段下に見られていました(そう扱われていました)。
新しい憲法のもとでは人としての尊さは男性も女性も変わらないとされました。男女平等です。
しかし、それでも男女平等にはなりませんでした。
そこで男女雇用機会均等法(1985年)を作って雇用の際、募集や採用、配置、福利厚生、退職、解雇などにおける男女の差別的な取扱いを禁止しました。
それでもまだ、日本ではジェンダー平等が進んでいません(2022年の日本のジェンダーギャップ指数の総合スコアは0.650で、146ヶ国中116位)。
法律で差別禁止をしてもなお、平等が達成されないというのが私たちが歴史から学ぶことです。
ここで注意が必要です。この部分だけを取り上げて、「じゃあ差別禁止の法律なんて意味がなかったじゃないか」という結論にはならないということです。
差別禁止を定めた1985年の法律以降もみんなが努力をしてきたけれども、平等にはなっていないのです。
ですから、差別禁止を定めた法律の制定は間違いではなかった、ということです。
では話をLGBT差別禁止に戻しましょう。
すでにみなさんお気づきのように、ここでのベストな選択肢は3、つまり「差別禁止をする」になります。
LGBTに代表される性的マイノリティを差別することを法律で禁止する。
これが歴史的にみても論理的にみても最善の選択肢になります。
もちろん、男女平等のように、性的マジョリティと性的マイノリティの不平等はしばらく続くかもしれません。
それでも、差別禁止を法律で決めることが必要なのです。
参考資料
画像:UnsplashのRob Schreckhiseが撮影した写真