369. 「G7でLGBT差別禁止法がないのは日本だけ」という報道はミスリードだ。G7各国は包括的な平等法の中にLGBTを組み入れている構造であり、LGBTに特化した法律ではないのだ。これでいえば、日本にLGBT法は「すでに」ある。SOGIハラ禁止やアウティング禁止が盛り込まれた改正パワハラ防止法だ。
これは、ご自身もゲイであることをカミングアウトされて政治活動を行なっていらっしゃる松浦大悟さん(日本維新の会秋田1区支部長)の2023年3月16日のツイートを引用させていただいたものです。
LGBT当事者の中からLGBT理解促進法・差別解消法について発言がなされるのは大変いいことだと思います。
もう何度もこれまでの記事で書いてまいりましたが、1つの事柄に関しても、100人のレズビアンが入れば100通りの意見がある、100人のゲイがいれば100通りの意見があるというように、LGBTだから「みんなが」法整備を望んでいることはないかもしれません。
さて、今回の松浦さんの主張は次のようにまとめられます:
では松浦さんのおっしゃる改正パワハラ防止法があるため、わざわざLGBT差別禁止法を作らなくてもいいのでしょうか。
この点について考えてみたいと思います。
まず、この改正パワハラ防止法ですが、2022年4月からパワーハラスメント防止措置が全企業に義務化されました。
そして、その中には、パワーハラスメントに関する例として、次のようなものが挙げられています:
松浦さんの指摘の通り、改正パワハラ防止法の中にこれらの文言があり、LGBTに対する差別が禁止されているように思われます。
しかし、この改正パワハラ防止法というのは、「企業」に「防止措置」が求められているだけであり、他の市民生活、例えば居酒屋でトランスジェンダーであることを理由に入店を断られたり、不動産業の店が客に部屋を紹介する際にLGBTは入居お断りという差別的扱いは含まれません。
この改正パワハラ防止法は、企業(会社)の中だけの取り決めなのです。
これでは、小中高で「ホモ、オカマ、レズ、おとこおんな」といった同級生からのいじめや差別は防げません。
また、先日話題になった首相秘書官の「ゲイカップルが隣に住んでいたら嫌だ」「気持ち悪い」などの侮蔑的な発言も何ら「悪いことではない」ということになってしまいます。
このように、企業(会社)だけに制限を設けるのではなく、広く社会に向けて差別をしてはいけないというのが差別禁止法の趣旨だと思います。
368の記事で取り上げた三重県の条例を引用します:
会社に属していない人でも、そして会社という組織に属していても会社の外という社会生活の場でも、性的指向や性自認を理由とする不当な差別的取り扱いはいけないのです。
だから「国が」この「差別禁止法」を作らなければならないのだと私は考えます。
参考資料
厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「職場における ・パワーハラスメント対策 ・セクシュアルハラスメント対策 ・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策 は事業主の義務です!」
三重県 「性の多様性を認め合い、誰もが安心して暮らせる三重県づくり条例」の解説 (令和3年3月)
画像:UnsplashのSaif71.comが撮影した写真