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世界経済を揺るがす米国のグリーン・サプライチェーン・ルール(1/2)

1.はじめに


カーボンフットプリント(CFP: Carbon Foot Print)をご存知でしょうか?CFPとは、商品 やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量を CO2に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する 仕組みです。

ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を活用して、環境負荷を定量的に 算定するという取り組みです。 事業者と消費者の間で CO2排出量削減行動に関する「気づき」を共有し、「見える化」さ れた情報を用いて、事業者がサプライチェーンを構成する企業間で協力して、更なる CO2排出 量削減を推進することを目的としています。「見える化」された情報を用いて、事業者や消費者がより低炭素な消費生活 へ自ら変革していくことを目指しています。

CFPやLCAの取り組みは新しいものではなく、1990年代にはすでにこうした取り組みを行っていました。当時は、脱炭素を狙ったものではなく、設備や機器の省エネルギー対策といった目的であったように記憶しています。

ここで重要なのは、システム境界という考え方で、どこまでを評価の対象とするのか、そのためのデータのインベントリーをどこまで完成させるのかということでした。これらによって「CFPやLCAの結果はどのようにもなる」ということです。データのインベントリーを充実させるのは、相当難しいことでした。

今回、こうした脱炭素の動きにまつわる米国で起きているグリーン・サプライチェーンの動向、課題などの報告がありましたので、ご紹介します。

日本でも、このまま脱炭素やゼロエミッションの運動を進めて行けば、十分にあり得る話しです。

https://www.theepochtimes.com/the-green-us-supply-chain-rules-set-to-unspool-and-rattle-the-global-economy_4394919.html
 

2.証券取引委員会が提案する新しい温室効果ガス規制

ココアパフ 1箱の製造は、世界的に見ても複雑な問題を抱えている。アフリカのココア農園から始まり、アメリカのトウモロコシ畑、中南米の砂糖農園など、さまざまな場所で其々の生産が行われている。そして、ゼネラル・ミルズの本社があるミネソタ州の子供がシリアルをボウルに注ぐまでに、何千もの加工業者、輸送業者、包装業者、流通業者、オフィスワーカー、小売業者がサプライチェーンに加わっている。
 
このココアパフのサプライチェーンに関わるすべての人、機械、車、建物、その他の製品から排出される温室効果ガスをカウントするという、ゼネラル・ミルズ社が直面する課題を想像してみてください。
 
米国証券取引委員会(SEC)が提案する新しい温室効果ガス規制を遵守するために、何千もの上場企業がまもなくこのような困難な課題に直面することになるかもしれない。
 
3月下旬に発表された包括的な計画は、著名な環境保護団体から長年の勝利として歓迎されたが、一方で企業は、投資家に大量の新しい情報を開示し、気候変動の予測できない影響に対処することを余儀なくされる。
 
「悪天候などの気候変動リスクと、その財務的影響について教えてください。その脅威は事業戦略にどのような影響を及ぼし、危険を回避するための計画は何でしょか?」

SECの規制案の中で最も影響が大きく議論を呼んでいるのは、企業がサプライチェーンを含む温室効果ガスの総排出量を計算することを義務付けるということだ。
 
この規制は、11月の中間選挙を控えた民主党にとっては、政治的に重要なものといえる。バイデン政権とウェストバージニア州の中道派ジョー・マンチン上院議員は、両者の確執の中で、今年初めに消滅したクリーンエネルギー法案に、再び活を入れようとしている。もしこの妥協案が失敗に終われば、マンチン氏は、再生可能エネルギーだけでなく化石燃料にも連邦政府の支援を求めているとも言われており、バイデン大統領の野心的な気候変動政策の多くは、SECに委ねられることになる。
 
SECのゲンスラー委員長は、株主がより賢明な投資判断を下し、企業の「グリーンウォッシュ」に対する責任を追及するために、企業に対して気候リスクの開示を要求すると述べている。この規制はまた、環境・社会・ガバナンス(ESG)運動の投資家が、企業にCO2排出量の削減を求めるキャンペーンを展開する上で、より大きな力を発揮することになる。
 
ウォルマートのような多くの企業や商工会議所のようなビジネス団体は、気候変動に関する情報開示の義務付けという考えを概ね支持しているが、SECが経済全般にわたる規則を強引に標準化しようとしていることについては、異議を唱えている。商工会議所は、企業が自社の事業や投資家に関連する内容に基づいて、気候変動開示の内容をカスタマイズできるよう、柔軟性を求めている。

3.サプライチェーンでの排出量の把握

企業側の最大の不満は、SCOPE3と呼ばれる、サプライチェーンの排出量を計算して開示することを義務付けるルールである。
 
「大企業は、数百カ国に数千のサプライヤーを抱えており、合理的な会計処理を行うことは非常に複雑である。まず、製品やサービスの供給者の多くは、SECの管理下にない民間企業であり、コストや排出量を減らすために商習慣を変えなければならないという意味合いから、カウントへの協力を拒むかもしれない」と、サプライチェーン報告の問題点を分析してきたパッチェル教授は語っている。
 
また、ゼネラル・ミルズ社のアフリカのカカオ農家のように、小規模なサプライヤーの多くは、自社の肥料やトラクター、農法による排出量を測定する能力を持っていないことも障害となっている。そのため、「企業は国や業界の平均値を参考にせざるを得ないが、それはサプライヤーによる実際の排出量を反映していない可能性が高い」と、研究者は述べている。
 
環境政策とビジネスを研究するパッチェル教授は、「企業が何千ものサプライヤーから収集するよう求められるデータは、気の遠くなるようなもので、確かに前例のないものであり、それは、企業が実際にできることの理想化された概念だ」と。「その結果、投資家に気候変動リスクを明確にするための規制が、信頼性の低い排出量開示を行うことになり、投資家は「より不利益を被る」ことになるかもしれない」と、500ページに及ぶ提案に反対票を投じたトランプ氏が任命したSEC委員は書いている。 

4.投資家キャンペーンの誕生

20年前、国際環境保護団体CDPは、機関投資家を組織し、世界中の企業に少なくともCO2排出量の一部を明らかにするよう、圧力をかけるという戦略の先駆者であった。CDPは宣伝文句として「企業は、農業、製造、流通、消費者利用など、世界各地に広がる事業のどの部分が最も排出量が多いかを把握すれば、排出量を削減することができる」を掲げている。
 
自動車メーカーの場合、排出量のほとんどは自動車の運転に起因するものであり、製造に起因するものではない。一方、ハイテク企業はその逆で、デバイスの製造は、デバイスの使用よりも大きな気候問題なのである。
 
CDPのキャンペーンは、長年にわたって着実に前進している。2021年には、債券大手のピムコ、ハーバード・マネジメント・カンパニー、ヘッジファンドのAQRキャピタル・マネジメントなど160以上のグローバル投資会社を集め、世界1300社を対象にした。彼らはCDPのプラットフォーム上で気候関連の長い開示リストを作成するよう求められた。
 
この圧力に抵抗した企業もあれば、投資家を喜ばせるために恥ずかしくて初歩的な排出量の調査をした企業もあったようだ。ロンドンのCDPに気候変動に関するデータを報告しているアメリカの上場企業は 約570社(全体の15%)と推定され、その中でもインテルやペプシコは透明性において高い評価を得ている。
 
最近では、気候変動を収益への直接的な脅威とみなす企業も出てきており、特にゼネラル・ミルズ社のように、商品に依存する企業はその傾向が顕著である。投資家の後押しを受けるまでもなく、同社は自社のサプライチェーンについて調査を開始し、農業が圧倒的に排出量の多い分野であることを突き止めた。
 
同社は、2021年版グローバル責任報告書の中で、異常気象がすでに高品質の食品を提供する能力に支障をきたしていると述べている。
 
CDPとブラックロックなどの投資界の巨頭の支援を受け、SECは現在、この散発的な自主報告をほとんどの上場企業に対する義務制度に変えようとしている。CDPは、企業が、所有または管理する本社ビルなどの事業所からの排出量(SCOPE 1)と、使用するエネルギー(SCOPE 2)を報告することを義務付けているが、より簡便なものになっている。すでにCDPにこのデータを送っている企業もあるようだが、それほど苦労はしていないという。
  
一方、何千ものサプライヤーからの排出量をカウントする Scope 3 は、世界的に大問題になるかもしれない。当局は、そのコストを把握していないが、企業がコンサルタントや会計士、データの専門家を雇うため、「相当な」コストになる可能性があることは認めている。
 
しかし、排出量の大半はサプライチェーンから発生するため、環境保護団体は 60日間のパブコメを経て、SECの最終規則にScope 3を残すよう主張している。大企業は早ければ 2024年からSECに対して情報開示を開始する可能性があるが、SECが気候変動に関する規則を制定する権限に異議を唱える訴訟が起こる可能性がある。
 
投資家支援団体セレスのシニア・プログラム・ディレクターであるナッシュ氏は、「Scope 3排出量の開示は、企業が排出量に対処できる計画を立てていることを確認するために不可欠なもので、情報開示は不可欠な第一歩だ」と述べている。
 
しかし、セレスは、食品業界に焦点を当てた独自のキャンペーンから、企業がサプライチェーンの排出量を計算することがいかに大変なことかを知っている。食品業界は絶好のターゲットとなっている。国連機関によれば、食品産業は全世界の温室効果ガス排出量の3分の1を生産している。これらの企業の多くにとって、サプライチェーンは総排出量の約80%を生み出している。
 
昨年、ボストンを拠点とするセレスは、Allianz Global Investorsなどの大手企業を含む30以上の機関投資家を組織し、食品企業50社に対してScope3   排出量を報告するよう要請した。セレスは、SECが規則で提案しているのと同じ報告要件、いわゆるGreenhouse Gas Protocolを使用した。
 
このプロトコルは、製品が作られ始めてからその寿命が尽きるまで、15の報告カテゴリーをカバーしている。例えば、マクドナルドは、多くの国から仕入れた牛肉の生産に伴う排出量を計上しなければならない。その中には、原料の加工や輸送、製品の包装、廃棄物の処理、エネルギーの消費なども含まれる。さらに、オフィスや20万人の従業員の通勤、世界4万軒のレストランの運営に伴う排出も含まれる。
 
では、セレスのキャンペーンはどうなっているのだろう?今のところ、50社のうち、サプライチェーンの排出量を完全に報告している企業は皆無である。セレスによれば、23社だけがその一部を開示している。
 
 ナッシュ氏は、「排出量のカウントの複雑さとデータの不足が、食品会社にとって大きな障害になっている」と言う。ある食品会社がブラジルから供給される牛肉をどのように計算するか考えてみよう。
 
牛は、食肉処理場に到着するまでに5つの牧場を移動する可能性がある。その場合、各牧場がどのように運営されているかを正確に把握する必要がある。それぞれの牧場で牛は何を食べたのか?餌をどのように効率よく肉に変えていたのか。放牧によって、木や土に炭素を蓄える森林は破壊されていないか?牧場や国によって異なるこれらの要素が、牛のCO2排出量に大きく影響している。
 
セレスの食品と森林プログラムを指揮する博士号を持つナッシュ氏は、「サプライチェーンにはさまざまな段階があるため、企業がこの情報を追跡するのは非常に困難」と述べている。「トレーサビリティと透明性を向上させ、Scope3の分析に必要な正確な数値を得るためには、多くの作業が必要である」と述べている。

https://note.com/yosh_2100/n/n60ad7f9fe920


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