#36《最終回》旅して見たドイツ
わずかな旅の間、ミュンヘンとベルリンという限られた場所で見たドイツ。
それでもとびきり魅力的で、私は心をわしづかみにされてしまった。旅を振り返りながら、特に印象的だった部分を記しておきたい。
人が大人だ
街でも電車でも他人を気にしてそうな人がいない。それでいて一人一人がきちんとしているので全体の秩序が保たれている感じ。「お互い大人なんだから干渉せずにいきましょう」という成熟した空気が漂っている。
それは旅行者の私に対しても同じで、たとえ店員さん駅員さんであっても過度に構ってこない。放っておいてくれている感覚だった。
しかし、こちらが話しかけると話は別だ。みんなにこやかに答えてくれた。実際にドイツに行くまでは「ドイツ人ってムスッとしていてお堅いのかな」なんて思っていたのだが、とんでもない! クリスマスマーケットで出会った人も、カフェのマダムも、道端でものを尋ねた相手も、ニコニコとしゃべるしゃべる。ドイツ人って話好きなんだろうか。人にもよるだろうけど。
なんとなく豊かだ
ドイツの鉄道ではどうやって運賃の支払いを管理しているのか。どうやら切符を買ったら駅のホームなどにある「刻印機」で刻印を押すらしい。車内で検札係が巡回していて刻印がないと罰金なのだそう。なぜこんな伝聞調なのかというと、私が空港駅から中央駅まで乗った列車は時間指定の切符で、刻印の必要がなかったし、検札係も見かけなかったから。こんな一見ガバガバの集金でも鉄道会社がやっていけてるということはみんなちゃんとお金を払ってるんだろうな。ドイツ人、大人だな。(#6ミュンヘン到着)
ドイツ人が大人、というのもあるだろうが、根本的に豊かなんだと思う。大半の人は良心に従って運賃が払えるくらい豊かだし、一部にチケットを買わない人がいても支障ないくらい鉄道会社も豊かなんだろう。
また、カフェなどのトイレの前に大きなお皿が置いてあり、トイレを利用するためのチップが丸出しで入れてあることがあった。もし同じことを日本でやったらどうだろう? どれだけ無事残っているだろうか。
街が清潔だ
ドイツに行くまでは「清潔な国といえば日本」なんて思っていた。確かに日本に来た外国人の口から「日本は清潔だ」という感想を聞いたことも一度や二度ではない。
しかし、ドイツに行ってみて「ほほう、こんな国はあるとは!」と驚いた。
路上にも駅にも電車にも観光施設にも、ポイ捨てされたごみやたばこの吸い殻などほとんどなく、みんなが街をきれいに使おうとしている印象。
中でも、トイレの清潔さは素晴らしかった。日本にいてもどの国に行っても「あ、このトイレ使うのちょっと嫌だな」と思うことがたまにあるが、ドイツにいる間そんなことを思ったことは一度もなかった。
ドイツのトイレで特徴的なのが、それぞれの個室にブラシが設置されていること。たとえ掃除を担当する人がいたとしても自分で汚したトイレは自分で掃除するという意味合いらしい。みんながトイレをきれいに使おうと思っていてこそ保てている清潔さなのだろう。
人が少ない、犬が多い
私が訪れた中で「混んでるなー」と感じたのはベルリンのクリスマスマーケット「ジャンダルメンマルクト」だけ。それ以外で人がたくさんいるという状況はほとんどなかった。どこに行っても歩きやすいし快適。
日本より少し小さい国土に人口は8300万人。それでこの豊かな暮らしができているのだからうらやましい。
一方、犬は多い。というかどこにでもいる。最初にミュンヘン空港から乗った電車の車内にも、ベルリンのフレンチレストランの店内にも、もちろん街中いたるところにいた。
そういえば最近、ドイツの「犬の散歩は1日2回法案」が話題になっていたが、ドイツと日本とでは犬と人間の距離感が少し違うようだ。
あとがき ~ドイツにひとりで行く人へ
あれから8か月も経つというのに、私はずっとぼんやりドイツのことを考えている。
スマホのホーム画面には今も日本標準時とともにドイツ時間が表示されているし、時折グーグルストリートビューでミュンヘンやベルリンの街を見ている。もちろん、ルフトハンザやDBのアプリは消していない。
街中でBMWの車を見かけるとバイエルンに思いを馳せ、ドイツのブランド「フェイラー」からドイツ柄のハンカチが出ていると聞けばわざわざ取り寄せてもらい購入した。(かわいい……)
しかし今、2020年8月の現状といったらどうだ。
私は大阪から一歩も動けずに、多くの人と同様「いつになったら行けるんだ」と状況を見守っている。
それでも私は、グーグルマップで「次行く」リストの旗を数限りなく立て続けているし、ドイツ語の勉強も少しずつしている。気分はずっと離陸直前だ。
ドイツへ、きっと私は何度でも行く。
それならこの旅に、始まりも終わりもないのだ。