#8 本場のクリスマスマーケット!
キラッキラの広場へ
オシャレなバスタブ屋さんやワイングラスで有名なリーデルのワインバーを横目に見ながらミュンヘンの街をぶらぶら。
すると、突如として現れたのがキラキッラのマリエン広場!
これが、ああこれが、ドイツの、本場のクリスマスマーケットなのですね!
立派な仕掛け時計のある新市庁舎はミュンヘンのシンボル的存在。その前にはクリスマスマーケットの屋台がひしめく。
グリューワインを飲みながら、かわいい小物を物色……といきたいところだが、なにぶん往路の疲れがドッときている。今夜行くべき店にたどりつく前に行き倒れてしまってはいけないので、ほどほどに雰囲気だけ味わっておこう。大丈夫。この旅の途中、どこへ行っても、嫌でもクリスマス三昧なのだから。
老舗のバイエルン料理
ドイツでの1食目に決めていたのは新市庁舎の地下にある老舗「ラーツケラー」。ガイドブックには創業140年以上とある。その看板に少しビビりながら入ってみると、店の雰囲気はわりとカジュアルで居酒屋っぽい。家族連れが和気あいあいと食事をしてたりする。
通されたテーブルで待っていると担当の、がっちり系ヒゲ兄さんがにこやかに話しかけてきた。
「やあ、旅行で来たの? どこから?」「日本です。今日がドイツ1日目」「本当!? 僕もこの店で働くの1日目なんだ。ハッハーッ」
若干の不安を覚えつつ、メニューの前菜のページからマスの燻製と焼きソーセージ3本、そしてビールを注文。
イヤな予感は的中。待てど暮らせど料理もビールも来ない。20分ほど経ったころバタバタと歩き回るヒゲ兄さんを捕獲。「私、料理とビール、オーダーしたんだけど」と言うと明らかに「あ、いっけねー!」的なリアクションで伝票をめくっている。やっぱり……
「オッケー。すぐ持ってくるからちょっとだけ待ってて!」と愛嬌で乗りきろうとするヒゲ兄さん。うん、許すよ。初日だもんね。
オーダーから30分、やっとマスの燻製とビールが到着。
マスの身はフワフワしっとり、スモークの味がしっかりついていてビールに合う! 付け合わせの赤大根やらコールラビもほんのり酸味のある複雑な味付けで絶品。そして何より写真右上、キャンディのような包装のバター。これがとてつもなく美味しかった。ミルクの風味が感じられて少し塩気が強め。マスと一緒に食べるとあっさりした口当たりが一気にリッチになる。もう、ドジっ子ヒゲ兄さんのことなんてすっかり忘れてマスとビールを交互に口に運んでいた。そのとき……
「楽しんでる? ソーセージをどうぞ」
兄さんが持っている皿を見るとソーセージが8本も乗っているではないか! 多すぎる!
「私が頼んだのはメイン料理のページに載ってる1皿8本のやつじゃなくて、前菜のページの3本のやつでしょ? ほらー、マスと同じページのやつって言ったよね。思い出した?」
兄さんはまた「いっけねー!」って顔をして笑顔で私に謝りながらキッチン方面へ戻り、しばらくするとソーセージ3本の皿を持ってきてくれた。
焼きソーセージは脂っぽくなくて肉の味がしっかり。そこにハーブが香る。付け合わせのザワークラウトは思ったより柔らかくて、酸っぱいけどなんとも優しい味。食べ終わる頃にはヒゲ兄さんのことも「お互いがんばっていこうな」っていう気分になった。
結局ビールは1杯しか飲まなかったけど500ミリもあって十二分に酔った。
帰り道、酔いから来る妙な自信で地図も見ずにずんずん進んでいたらちょっと暗い道に入っていってしまい、怖くなって早歩きでホテルまで帰る。部屋に戻ると安心感と疲れで気を失うように寝てしまっていた。日本出発から続いた、長い長い12月21日(土)はかくして終わっていった。