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ネットプリント「夜夜中・ダイジェスト・さりとて vol.1」全文掲載

イントロ

「夜夜中・ダイジェスト・さりとて vol.1」と題して、歌歴半年を記念したネットプリントが出ました

2020/05/18~2020/11/18までに発表した既作品から自選三十首と、連作三編、計六十首を掲載しています。こちらのPDFからもご覧いただけます。

自選三十首

とこしへに明かぬやうなり夜夜中さりとて雲はいづこへ流る

忘れてはいない約束 立ち入りを禁じられてはいない屋上

キャッチの謳う完全個室居酒屋の完全はもう見たことがある

天使たちの安全性を鑑みて最近増えている昇降機

じっと見てカシス・オレンジかき混ぜる前にグラスの内の落陽

省略は共有であり君のそれ取ってのそれもつつがなく取る

夢に見た未来の街の人々が未来の悩みを抱えて生きる

あの赤い非常時を見ろ指の先ひとつで起動する非常時だ

明日こそやろうと思う明日また明日やろうと思うと思う

限られた自在も愛す水槽で煌めくネオンテトラのように

手で波を起こしてどこかの砂浜に眠る鯨を弔ってやる

隕石で終わる日の朝買い付けたアジをそれでも握る大将

忌数を避けた館内案内ののちに迷子となる異邦人

本物の潜水艇が往く海を夢の中では見たことがある

多重夢を抜け出すことの発熱でアブラハム湖に訪れる春

鈴虫を孕んだエレベーターがあり外階段をやむなく昇る

坂の上の電話ボックス希望って多分ああいう光に似てる

ディスプレイだけが光を放ってて404に宇宙があった

葡萄でもいいのだろうかひと房のダイナマイトを書架に置き去る

順番を待つだけでいいそのうちにドネルケバブの削げ落ちる肉

鳩の国で暮らしていますマジシャンに消してもらえてからというもの

帝政も王政もないペンギンの群れがみんなでくっついて寝る

たばこ火にミカと名付けるゆっくりと僕の呼吸で息絶えるミカ

探偵が(遺品としての虫眼鏡はじめて見るな)最初に死んだ

暗がりを、けど向こうから近付いてくる足取りで君だとわかる

なんか石に名前とか彫ってみようかなこのあと全部沈むとはいえ

捨てた財布が届いたという連絡がありもう少しだけ死なないでおく

思い出し笑いのような温もりでときおり揺れを生む熱気球

冬の朝のような胸にも一篇の詩歌が射し込む陽だまりがある

ご破算で願いましてもここからの星を全部は数えきれない

自選連作三編

へらへら 十五首

常に気は張り詰めている白いシャツでカレーうどんを食べるみたいに

殺し屋のような目つきで黒ずんだシャワーカーテン袋に詰める

また濡れるズボンを思う天啓として立ちのぼる雨の匂いに

ビビッドカラーのきのこみたいなアイデアが片隅にあり決して採らない

明るくない話題はどうも切り出せず余白に下手な花ばかり描く

ああやっぱそうなんすかねなんかいま割といるって聞きますものね

舌先でワイン転がすときみたく分かったような顔だけ上手い

おそらくは注意欠陥障害と言われて医師にへらへら笑う

なにもかも流れていった、外側を、なにも流れてないイヤホンの

じゃなかった時が怖くて避けていたじゃなくないから怖くなかった

人はみな意図せぬほどに拝火教またライターをどこかに失くす

うっかりに名前がついて五千円 星に名前をつけてスマイル

臨時ニュースでは行ったことない国のビルが倒壊して爪を切る

目を閉じるたびに世界は終わってて僕は違いに気付いていない

刻々と夜を失う公園であのハトなんかデカくないすか

わずか1カンデラの 十首

ジャック・オー・ランタンのある家にだけそっと一礼する浮遊霊

黒猫とカラスが見つめ合うひとつひとつ違いを確かめながら

年老いた技師が眠った日だけその夢を上映してる映写機

カメラロールの君があんまり笑うからまだキャンディを噛めないでいる

街灯が夜霧を裂いて照らし合うように誰かと向き合えたなら

地下鉄の車窓に映る僕でない僕だけが今僕を見ている

トルソーにされたくなくてほとんどのマネキンは夜しか歩かない

予想よりずいぶん良くてみんなにも教えてあげたくなる走馬灯

空き缶を持った人にはごみ箱を すべての羊には羊飼いを

眠れない君の小さな灯台でありたいわずか1カンデラの

届かないほうの光 五首

ベランダで月を見られる部屋に居て次は見えない部屋に引っ越す

コンビニは僕の神殿だと思う その永遠へ祈りを捧ぐ

どうしてもピントがずれる届かないほうの光を撮ろうとしても

カラーコーンと放置自転車抱き合って僕は湿気たタバコにむせる

信号の青までを行くかろうじてここから見える夜道の果ての

アウトロ

作歌を開始してから半年が経ったのを記念して初めてのネットプリントを制作しました。
自選三十首に掲載した歌のほとんどは短歌投稿サイト『うたの日』に、また自選連作三編に掲載した連作のうち「へらへら」「わずか1カンデラの」の二編は短歌連作サークル誌『あみもの』に、それぞれ投稿したものです。いつもお世話になっております。
まだまだ夜は更け出したばかりですが、今後ともあたたかく見守っていただけますと幸いです。
発行日 二〇二〇年十二月三日
制作  夜夜中さりとて(@yorusari)

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