30首連作「サマーシーズン」
「サマーシーズン」夜夜中さりとて
まるでそういう仕組みのように缶ジュース飲み干すときに見える三日月
この道で猫が死んでたそのことをときどき思い出す加害性
水瓶は水で宅配ボックスは宅配物で充たされている
僕に迷路を与えて夜は得意気だ 得意気というのは想像だ
真夜中のビルを巡回するように生真面目なあなたの暮らしかた
一晩かけてコーラは泡を手放した、それはもうコーラが決めたこと
ボニーとクライド(ボニーは暗い土曜日をひとりで過ごすことも選べた)
帰納法 今日も昨日の友達と一緒にいられたらうれしいね
1コメをゲットしている人々のテンション、春の校庭に春
なめらかな湖面に滑り降りる鳥そうあるために生まれたような
ドイツ語の映画にドイツ語の字幕、レシピに家にない調味料
劇場がやがて明かりを落とすころ雨は雷雨に、神は細部に
ノックスの十回クイズ間違えて被害者も加害者も終わりたい
自責、でもこの大いなる内省は大いなる自己愛を生むかも
北に滝 陰謀論者たちだけはそれを陰謀論と呼ばない
言葉にすると何かが欠けるとき僕は僕のゴーストライターになる
本棚に積んでる本のいくらかを机に持ってきて積んでみた
愛おしい登場人物たちがいきなり舞台装置になる加加速度
読めなくて眺めるときのそんな目をあなたにそんな目を向けたこと
空の青さに関係がない感情の、ともあれ到るサマーシーズン
僕たちはすっかり大人 大人から大人にあげるアイスのあたり
魂でいくから、あなたもよかったら本当の言葉で話してね
風が茨を吹き抜けてなお風であるように巡音ルカの歌声
ヘリの音、ちょうど真上を抜けてくとこで僕もあなたも海老反りだった
燃やされているみたいって夕焼けの中を老夫婦がはしゃいでる
どこも誰かが気にかけていて果樹園をあらわすためにある地図記号
十九時の時計売り場がめいめいにいちばん好きな音かき鳴らす
みんなで買ったパイナップルに包丁が通らなくて笑った夏の夜
愛に気をつけてね愛でくくったらこぼれるものはたくさんあるよ
向かいのホームにさっき別れた友達を見つけて見つかって手を振った
(第六十五回短歌研究新人賞予選通過作、
歌集『ハニー・バニーとパンプキン』収録)