海月、黒花斉唱、他 【詩作4編】
海月
きみは前世に宇宙から飛び降りた星だった、
だから今のきみは太陽を目指して外に出て、
海を見たり花の匂いをかいだりご飯を食べて、
死んだときはまた、星に帰っていく、
たくさんの光を蓄えた、星になる。
五百億光年、
その先を目指す物語の途中のわたし達だから、
過去と同じだけの今があって、
今と同じだけの未来があった、
歴史は一粒一粒の雨になって、
雲の上で子供みたいに跳ねていた。
今さらきみに与えるものはないけれど、
きみに求めるものもないことが、
愛なのか、恋なのか、わからない、
ただ、窓を叩き割って、自分の目で、
月をたしかめたかったんだと思う、
きみに歴史があったことを見たかったんだと思う。
ふと、部屋の鏡を見ると、川が流れていて、
川の上には白い建物があった、
建物には知らない人が出産をひかえていて、
しばらくすると産声が響いていた。
その日は星がとてもきれいな夜だった、
星がひとつ、空から消えた夜だった。
黒花斉唱
きみが避けたいと思う不幸が、わたしにとっては幸せでありますようにと願うことが、わたしがきみに与えることのできる唯一の希望で、わたしは背中にある羽を一枚ずつもぎながら、いつか美しい別の世界に飛び立つことを夢に見ている。夕方は、わたしのことをわたしが一番好きだと思う影、こんなにも深く続いていく空から透明な運命がひらひらと落ちてきて、それに触れた人が死んでしまうなんていまでも信じられないし、生まれてきたことが罪だと思うこども達が、自分が知らないうちに生きることに契約されていることが信じられない。
知性を持った花が人間の悪口を言いながら歩き始めたとき、わたし達はもうお互いのことを忘れていて、ただ死ぬことに感謝を繰り返していた。果てしのない体の内側で、祈りの歌を繰り返していた。
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