フリーランスに休業手当は必要か
理屈はわかる。匿名でなければとてもじゃないけどこんなことは言えない。でも私の中では納得できないから書かせてほしい。
お金に怯えたくないから就職した
芸術肌の多い友達に囲まれた大学時代だった。作品作りにはどうしてもお金が必要で、どれだけいいアイデアを思いついても出力にお金をかけなければゴミ屑になってしまう。実家からの援助がほとんどなかったわたしは、ちゃんと意図が伝わる作品にするにはどうしてもバイトをしなければいけなかった。
実家の援助で作品を作っている友達はわたしがバイトをしている間にも作品を作っているんだと思うとつらくなってくる。一生お金に怯えながら、恵まれたパトロンを持つ友人を妬みながらこんな生活をしていたら、友達の幸せを喜べない人間になってしまうと思い就職を決意した。好きなことを嫌いになる前に趣味にしてしまおうと思った。
雇用されている=保険料を払っている
わたしは企業の犬になる代わりに、生活を保証してもらうためのいわばみかじめ料を払っている。わたしは企業の名前を借りて仕事をもらう代わりに、生産した価値の大半を企業に献上し、企業はそこから法人税を政府に払っている。
そして昨今のコロナのように経済活動が破綻した時、わたしはこれまで払っていたみかじめ料の中から保証を受ける。仕事が減っても会社から給料がもらえるし、企業の存続が脅かされればこれまで払った法人税を元に政府から補助がもらえる。これは今まで払ったからもらえるリターンであって、保険が降りたと捉えるのが適当だ。
実際、原価は労務費しかないこの産業でも、わたしはクライアントからもらっている料金の1割しか懐に入っていない。バックオフィスの費用を考えても半分以上は企業に入っているわけで、そこで保証がもらえるのは当然だと思う。
フリーランスはなぜ保険をかけないのか?
そこでフリーランス/自営業について考えてみる。彼らは自分が稼いだお金はそのまま自分の懐に入る。個人事業主として起業して入れば法人税も払っているからその分の保証は受けられて然るべきだが、わたしが企業に抜かれているお金は払っていないのだから、少なくともその分は余分にもらっていることになる。
フリーランスの友人にはさんざん私の生き方は笑われてきた。
「そんなにお金を稼いで何の意味がある?」
「企業の言いなりになっていて悲しくないのか?」
意味ならあるよ。万一の時の保険だよ。
2、3か月仕事をできなくなってしまう可能性なんて、ウイルスでなくても経済の動向や自分の体調で考えられる可能性だ。日々自分が生きていけるだけの経済活動に終始して、稼いだお金をすべて使っていて、それで「このままではお店がつぶれてしまいます!」なんて言われたって、正直「そうですか。」と思ってしまう。
なんでそのお金で保険に入らなかった?なんでそのお金を貯金しなかった?ついそんな風に思ってしまうのだ。
それでも保証はされるべきだ
そうは言っても日本国民として税金を納めている以上、最低限の人権は政府によって保証されなければいけない。ただそれは本当に収入がなくなってしまった時の生活保護で担保されている。
しかし、生活保護を受ける段階まで生活が困窮してしまえば、価値のある芸術や文化は生まれなくなってしまう。文化を守る為、わたしたちのこれからの楽しみを守る為にも、職業として芸術家や個人経営の飲食店は未然にちゃんと守られてほしい。ただそれは財源が違うのだから、会社員と同じようにフリーランスを保証しろという話ではなく、文化としてちゃんと保護してくれというべきだと思う。
何にわたしがずっとモヤモヤしていたのかと考えるとその点だった。生活を守れと言われるから、なんで保険かけとかなかったんだ、なんで貯金しとかなかったんだ…と思ってしまっていたのだ。国として守るべきは彼らの生活ではない。彼らが文化を生産し続けることのできる環境だ。
そして今後は、彼らが自分の手取りの中から日々必要なお金を差し引いてリスクヘッジのお金を残せるように、フリーランスに払うそもそもの対価を上げていかなければならない。彼らは彼らで「日々生きていけるだけの金があればそれでいいんだ」などと言わず、もっと一生懸命経済活動に寄与してほしい。
そしてアルバイト
アルバイトであることによるメリットは、企業の犬にならずに済むという自由度である。企業はバイトに自由を保証する代わりに彼らの生活を保証する義務は負っていないから、企業都合で解雇することもシフトを入れないこともできる。過剰にバイトから搾取している企業は一定彼らの生活を保証することが義理だとは思うが、義務ではない。
ただ、自由を求めてバイトを選択しているわけではない非正規雇用の人間もたくさんいる。ほぼ正社員として雇用されていて、自由に休むこともできずマネジメント業務を任されているようなバイトは、完全に搾取される立場にある。これは極力なくしていかなければいけないと思う。
最後に
北欧諸国と比べれば日本国民が等しく収めている税金は塵みたいな金額で、かなり大部分が法人税で賄われている。そのような社会構造になっている以上、企業は国民の生活を保証する第二の政府として”永年雇用”という概念が生きているし (現に日本に税金を入れていない外資ではUP or OUTになっている)、法人税が入らなくなれば国が存続できなくなるから法人の手当てに国は力を入れるし、企業に属していない人間は簡単に切り捨てられてしまう。
それぞれがどういう財源から、どういう立場で保証されるべきなのかを適切に訴えることができなければ、望む保証は勝ち得ないと思うのだ。