ゴースト・キス
俺には名前がない。だって死んだから。
所謂、ゴーストってやつだ。
神様とやらに、名前の記憶を消されたんだ。
それでも。ナナのことは覚えていた。
ナナは、俺を愛していた。
ラブレターを二通貰った記憶がある。
一通は、星の欠片が喉に刺さった王様の物語だった。どうやら、上手く気持ちを表現出来ないから、物語で想いを伝えたのだろう。面白い物語だった。字は震えていて、下手くそだったけれど。
もう一通は、身体が悪いことが書かれていて、思うように動けないこと、行きたいところがあっても、なかなか行けないことが書かれていた。
俺はゴーストになってから、ナナの隣りに居たりする。ナナには見えないみたいだけれど。ナナの心の声も聞くことができる。
雨粒が窓にへばりついて、滴り落ちてゆく夜。
ナナが泣いていた。俺はナナの隣りで、しゃがみこみながらナナの顔を見ていた。涙が幾度も幾度も流れ落ちて、流れ星みたいで、綺麗だった。
俺はそんなナナのくちびるに、見えないキスをした。透明なキス。この世とあの世で一番美しいと思った。そうすると、目をうっすら開けたナナと少し目があった気がした。そして、俺の目にも、涙が溢れだした。ナナはそのまますーっと眠りについた。
ゴーストのくちづけで、束の間目覚めるなんて、なんか、いかれた白雪姫みたいだな、と可笑しくて笑った。
俺はゴースト。名前は覚えていない。
だって、神様に名前の記憶を消されたから。
でも今さっき思いついたんだ。
名前。作ればいいじゃん。自分で。
そう思って、考えた俺の名前。
それは内緒にしとく。
夜が明けてきた。
俺も少し眠りにつこう。
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ゴースト・キス
「束の間シリーズ③」短編小説
執筆 夜明ユリ