海がこわいはなし

私は長い間、海洋恐怖症を患っています。

この名称、
耳にしたことありますか？
珍しい恐怖症として、
取り上げられることがたまにありますが。

調べてみると、
海や川や湖などに
恐怖心を抱くことを言うようです。
私は、海洋生物も
観賞することができないので、
また何か別の恐怖症を
併発しているのではないかと
思っています。

まだスマホを持っていないころ、
私はこれを
「水族館恐怖症」
と
名付けていました。

小さい頃から、
水族館が怖かった。
親はそれを理解していなくて、
何度も私を水族館に連れていっては、
私が泣き喚くということを
繰り返していました。

わたしは表現するのが
苦手な子どもでした。
というより、
自分の心理や体の状態を理解していない。
だから、
「お腹すいた」
も、
「水族館が怖い」
も言えず、
ただただ泣き喚くような
そんな子どもだったんです。

やっと「水族館が怖い」と
言えるようになるまで、
わたしは何度そこに足を踏み入れたのか、
覚えていません。
ただあの、
私の視界を埋め尽くす
アーチ状の水槽
ふつふつと内側から湧いてくる
恐怖
それだけが今も、心に残っています。

さて、今回はこの感情について
少しだけ
答えを出してみたいと思うんです。
きっとこれはまだ模範解答ではない。
だけど、
この試みは私にとって
すごく本質的な意味で、
私がわたしになれる、
価値のあるものだと
思っています。

私は、なぜ自分が
ペットショップの一角を直視できないのか
なぜ自分が
底に絵が描かれたプールに入れないのかを
理解していませんでした。
プールに至っては、海洋でもなんでも
ないですよね。
平気なものと、
そうでないものの線引きは、
海洋恐怖症を患っている方々の中にも、
結構、揺らぎがあると思われます。

とりあえず、
わたしはファインディングニモを
鑑賞することができるし、
（チョウチンアンコウのシーン、怖いですよね…）
テレビで海の中の映像を見ることも
できます。（眉間にしわを寄せながら）
でも、スマホで「海の中」と検索した時の
画像欄は絶対に見られない。
ものすごく角度をつけた状態で、
そのページから去ることを試みます。笑
海の写真が飾ってあるホテルの廊下は、
手で目元を覆うようにして、壁を作りながら
足早に駆け抜けます。

ここまで言っただけでも、
よく分からないことが多いです。
あ、でもわたし、映像なら怖くないのかな？
スマホで見てみようと思ったんですけれど、
今想像しただけでゾッとしたのでやめました。笑

う〜ん… それに加えて、
底に絵が描かれたプールですからね…。

この話をすると、
たまに
「泳げないからじゃない？」
「水が怖いんじゃない？」
と言われるのですが
私は泳ぐのが好きだし、
水も怖くありません。

得体の知れないものが、
怖いのかも知れない。

海の中、そして宇宙もそうですが、
人間の手がまだ及んでいない
まだ知らないことが潜んでいるから、
怖いのかも知れないなって
思った時期もありました。

あとは、
予測ができないから。
青が重なると、
遠くの方は暗くなって、だんだん
見えなくなっていくじゃないですか。
その把握不可能性？が怖いのなら、
底に描かれた絵が
水の中で曲がったり、
こちらに迫ったりしてくるのが
怖いというのも、
なんとなく理解ができるんです。

でも、私、もっと
もっと感覚的というか…
もっと本能的なもののように感じます。

海は、すべての始まり。

じゃないですか

すみません、これについて
あまり詳しくは分からないので
知ったようなことは言えないのですが…

海は、すべての始まり。
だから怖いのかも知れない。
そう考えるようになったんです。

誰かが、
海は死を連想させるから怖いんだ
と言っていました。
確かに、海に落っこちたりなんかしたら
死を覚悟しますよね。
でもきっと、そういうことではない。

始まりがあると、終わりもあります。

私たちという命は、
始まったからには終わりがあるのです。

海はすべての始まりですが、
つまり彼・彼女には、終わりがあるということ。

ちがいますか？

始まりがあると、終わりがある。
そのことを感覚的に察知して、
恐怖を感じているのかも…
なんて、考えすぎですかね。

最後に。

三好達治の『郷愁』
という詩に、興味深い表現がありました。

——海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。

海の中には母がおり、
母の中には海がある。

「そうだよ」

わたしはこれを読んだ時に、思いました。
まだ触れたことのない仏蘭西語でしたが、
まるで全て知っているかのように
そうだよ。
そう思いました。

母は、始まりです。

母は、わたしの始まりでした。

そして始まった私には、終わりがある。

海ってやっぱり、怖いなあ。




誰かもわからない私という人間の、
恐怖症について
（しかもマイナー）
ダラダラと書き記しているものを、
どのくらいの方が
見てくださっているのか、
分からないですが
ここまで読んでいただき、
ありがとうございます。

そうそう、私、
海は怖いけど、
嫌いじゃないんですよ。
むしろ、大好きなんです。
海にはすごく
惹かれるものがあります。
小説を書く時に、
場面設定を海の近くにしたり、
海をテーマにして、
散文詩を書いたり…

そのくらい、
私にとって
海という存在は
未知で、
恐くて、
魅力的なんです。

これは愛です。

素敵なイラストをお借りしました。
しずくのグラデーションが、すごく
可愛いです。

それでは、おやすみなさい🌙