すべすべ、つるり。
家から駅へ向かう道のりに小さな商店街がある。今ではほとんどの店が畳まれてしまったけれど、わたしの小さい頃はまだ地元でも有名な活気のある通りだった。
駅のすぐそばにあるブティックは、私の休憩所だった。店の奥に姿見と一人用のソファと、ガラスのテーブルと陶器製の犬の置物があった。種類はよく覚えていないけれど、たしかシーズーだったような気がする。耳の先だけが茶色くなっていて、ツインテールをしたようなちいさなわんちゃんだ。
私はその店の前を通るたびに、おばちゃんに声をかけられ、店の奥でおばちゃんの相手をした。当時からそのような感覚をもっていたのなら私は随分と生意気な子どもだった。暇で仕方ないおばちゃんの相手をするために、わざわざ店の奥に連れて来られてあげたと思っていたのだから。
ガラスのテーブルの上にはまたガラスの器が置いてあった。透明なものに透明を重ねると、押しつけがましくなってむしろ汚らしい。そんなことなど気にならないくらい、わたしは目の前のあるものに夢中になっていた。
ガラスの器の中には、いつも溢れんばかりのべっこう飴が入っていた。これが、わたしがその店に通う一番の目的だったかもしれない。
中に空気を閉じ込めた香ばしい色の物体は、私の視線を奪った。わたしは食に興味のない子どもだった(今でもそうだ)から、べっこう飴という菓子に味覚が刺激されたのでなく、その美しい見た目に惹かれたのだった。だから、もしそこにべっこう製の靴ベラが置いてあったならば、私はその虜になったに違いない。
この思い出がわたしに何をもたらすわけではないけれど、ただ漠然と、あの頃に戻ることができないのだという事実が、波のように私に押し寄せる。何事もおもわず、目の前のものに夢中になれていたころのこと。
ブティックのおばちゃんがもう、店の前を通る私の名前を呼ばなくなった今も、わたしはあの時に見たべっこうを思い出す。