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退院先の選び方(20人目のAさん)

退院先の決め手は何かと聞かれるとケースバイケースとしか言えません。
基本は患者本人、家族の意思を支援しますが、医療スタッフ側としても望ましいと思う方向があります。
実際の現場では本人と家族の意見が食い違うことはたびたびおこります。
最終的には入院期限の中で半ば強引に折り合いをつけ、退院するということになります。

Aさんは71歳、男性。
妻と二人暮らし。
脳梗塞発症し救急病院搬送後、リハビリ目的で当院に転院してきました。
右マヒと失語症。
排泄は失禁。
糖尿病のためインスリンが必要。でも自分ではできません。
10年前に心臓の手術をして、身体障害者手帳は1級の認定を受けていました。
医療費の自己負担はありません。
妻としては家に帰る条件は室内は杖歩行、トイレは自立であること。

脳血管疾患+高次脳機能障害で入院期限は180日。
Aさんも頑張ってリハビリをして、車いすで自走できるようになりました。
失語症も大分良くなり、コミュニケーションもとれるようになりました。
しかし排泄は全介助でおむつ使用。
尿意や便意もわかりません。
さて退院後の方向をどうするか。
在宅で妻が介護しながらリハビリを継続するか、老健施設か療養病院でもうしばらくリハビリするか。
一通り説明して、まずは家族で考えてもらうことにしました。
しかしその場で妻からでた質問は、とにかく費用の安いのはどれか、というものでした。
妻としては、夫婦の年金は合わせて約14万円しかない。
施設の費用を払って自分の生活ができるのかが気になったようです。
Aさん自身もそのことを一番気にしていました。

住民税非課税世帯で負担限度額認定は第3段階。
老健施設や介護療養はAさんの場合、諸費用合わせて約7~8万円くらいになります。
残りでアパート代からいろんな支払いをすると妻の生活が大変。
一番費用がかからないのは、もちろん自宅で介護することですが、妻としてはそれは考えられません。
ではどうするか。
まず考えられるのは一般病院への転院か、医療の療養型への転医です。
Aさんはインスリンが必要で、血糖コントロールもよくなく1日2回血糖測定をしていました。
医療療養型だとなんとか医療区分に該当します。
また身障手帳1級なので医療費負担はいりません。
しかし病院というところはAさんにとっていいのか、と病院スタッフも悩みました。
確かに医師や看護師がいるので、病院というところは安心できます。
しかしAさんは血糖コントロール以外は病状的には落ち着いていて、認知症もなく意思表示はしっかりできます。
リハビリやAさん自身への関わりという点では、介護施設の方がベターです。
一般病院や療養型もリハビリがあればいいですが、在院日数の問題やリハビリ状況にも差があります。
できればしばらく老健施設がいいですよという話を再度しましたが、やはり経済的なことを言われました。
これを言われると何も言いようがありません。
結局自宅に近い医療の療養型への転医となりましたが、リハビリはあまりないと聞いています。
ただ、自宅に近い分、妻は通いやすいという点はメリットです。
療養型ではありますがその病院も長期に入院できるわけではありません。
その病院にも医療相談員はいますが、もし今後困ったらまた連絡ください、と退院時に伝えました。

望ましい療養先やケアプランも、経済的理由で仕方なく制限される。
現場ではよく経験することです。

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