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中国の女性向けゲームが日本で成功できなかった理由を考えてみた

スマートフォンゲームのグローバル化が進んでいます。
もうゲームは世界市場を狙うのがスタンダードになっていて、海外から日本市場を狙うケースも当たり前のように増えつつありますよね。
特に日本のゲーム市場はユーザーの忠誠度や客単価の高さで知られているので、海外からはとても魅力的な市場とされています。

今回は女性向けゲームの日本市場進出に関するお話です。
中国から日本を狙う話がメインですが、その逆の場合でもある程度通用する部分があるかと思いますので、少しでも参考になれたら何よりです。

1. 日本市場における中国の女性向けゲームの現況

ここ数年、日本のアプリゲーム市場において、中国ゲームの影響力は益々高まっていて、App Storeのセールスランキング100位に中国会社が開発またはパブリッシングを行っているタイトルは約3~4割を占めるようになりました。
しかし、女性向けゲームの世界ではまだ成功したと言えるようなタイトルはまだないのが現状です。

中国では社会現象まで起こすほど大人気だった「恋とプロデューサー」はから、女性が好きなあらゆるものを盛り込んて作ったRPG「食物語」まで多数のタイトルが日本市場にチャレンジしたものの、幅広い層に人気を得るのは失敗しました。最近日本でサービスが始まったばかりのコーディネートゲームの代表シリーズ「シャイニングニキ」も、作品の話題性などは前作である「ミラクルニキ」に及ばないように思います。

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▲21年 5月 24日のApp Store セールスランキングの1~50位。
約3割を中国ゲームが占めていますが、
50位内にランクインした3つの女性向けゲームは
すべて日本で開発・制作したタイトルです。

2. 中国ゲームのマーケティング手法は日々進んでいる

近年、日本のアプリゲーム市場で成功する中国ゲームが増えている要因の一つとして、中国の開発社やパブリッシャーがプロモーションに莫大な資本を投入してることもあるでしょう。特に初期のユーザー確保のために大事なポイントである事前登録~リリース初期のマーケティングが体系が整ってきたのが大きいと思います。

リリース初期はアプリゲームにとって非常に大事な時期です。初期にユーザー流入のピークを作れないとその以降のサービス維持にも少なくない影響を与えるため、多くのゲーム会社は事前登録と初期のマーケティング集中で序盤のモメンタム形成に力を入れると思います。
例えば、人気の芸常人やインフルエンサーを起用しマス広告やOOHも含め幅広い層にゲームの認知を高め、デジタルマーケティングを大量に投入し多数のユーザーを囲います。
このように中国ゲームのマーケティング投資規模が大きくなったことに連れ、日本の競合タイトルとも競争が激しくなってきました。

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▲ 白石麻衣さんを起用し大規模のプロモーションを行った
「コード:ドラゴンズブラッド」
日本マーケティング成功事例として
中国のメディアでも何回か取り上げられました。

なお、このような攻撃的なマーケティングで流入されたユーザーが安定的にゲームに定着するほど、中国ゲーム自体のクオリティが高くなったのもまた事実だと思います。<NetEase>や<Tencent>、<miHoYo>など大手は運営やユーザーへのフィードバックも割と安定的と評価されています。

ここで女性向けゲームの話に戻ります。
女性向けゲームはこのような定石的なマーケティング手法は使わないでしょうか?
もちろんそんなことはないです。女性向けゲームだって、少なくないお金をかけてオン・オフラインプロモーションを執り行い、デジタルマーケティングを出します。
ゲームそのものも、女性向けゲームの第一印象を決める華麗は見た目はもちろん、キャラクターの声も普通に日本の人気声優が担当されます。

なのに、どうして中国の女性向けゲームは他の一般的ジャンルな中国ゲームに比べ大きい成功を収められていないでしょうか?

3. 中国女性向けゲームの失敗要因について考える

まず背景として抑えておきたいのは日本の女性向けスマホゲームの市場は既にレッドオーシャンのレッドオーシャンということです。
一度コアになってしまえばなかなか浮気しない女性ユーザーの性質もあり、日本で企画・制作したタイトルも完全新規のコンテンツはヒットさせるのが難しくなっている状況で、そもそもゲーム単体ではなくIP展開の一部として活用されているケースが増えてきました。

だからこそ、海外メーカーが日本の女性向け市場に参入するハードルは非常に高いと言えるでしょう。最初からしっかりとした世界観を作り上げコアファンの囲い込みに力を入れている日本のタイトルと競争するためには、それに相応しい徹底とした事前準備が必要になります。

課題1. ローカライズのクオリティ

ローカライズは海外ゲームが日本でサービスを提供する際に必ずついてくる話題ですよね。
地域・文化的な特性を反映しつつ作品としてのオリジナリティも毀損させないという側面から、ローカライズが単純な翻訳でないことは多くの方々が認知されていると思います。

特にテキストのクオリティに敏感な日本のユーザーにはクリティカルな問題になる場合も少なくなく、ストーリー・キャラクター性が非常に重視される女性向けゲームは誤訳一つで全体のニュアンスが影響されたりもします。
些細な誤字脱字ですら、物語への没入感を阻害しクオリティに対する印象および運営への信頼にも繋がるので決して軽んじてはいけない課題です。

中国ゲームのローカライズクオリティについては、ネット上の評判からも、あまり良くない印象を抱かれている方も多いでしょう。幸い(?)数年前のゲームに比べ段々良くなっているという意見もよく見かけるので、今後改善の余地が多い部分でもあると思います。
(ローカライズはチェックプロセスさえ整っていれば解決の難易度は割と低いと思うので、その重要性を認識し投資をするかしないかの問題でもありますよね…)

最新のローカライズ事例として『食物語』を例として挙げますと、翻訳文の文法や語彙の不自然さ、キャラクターの口調、誤字脱字に加え、中国料理という題材の特性上、難読漢字が多すぎる問題もありました。しかし難読漢字に関してはゲーム内の一部にルビーを付けたり、読み方辞書をシステムとして追加するなど、ゲーム内の対応が行われました。
ルビーは一部にしか表示されないので、読みたい時にすぐ読めないシーンがあるのは少し勿体ないように思いました。ただ、中国ゲームの日本語ローカライズに対する重要性が高まっていることを体験した事例でもあります。

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▲ 目眩がするほどの難読漢字がずらりと登場しますが、
ちゃんとルビーもついています。
ただゲームの一部でしかルビーが見れないのはもったいないと感じました。

課題2. 慣れないゲーム性

ローカライズのクオリティが徐々に改善されている現在、一番のハードルはゲーム性ではないかと思います。そもそものゲーム設計が違うので、日本のゲームに慣れているユーザーには初期の定着難易度が高くなります。

端的に言うと中国ゲームは成長構造が複雑で時間をかけるやり込み要素が多い反面、日本は成長構造がシンプルで分かりやすさ重視なので適応しやすいというゲーム性の差があると思います。

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それぞれのゲームでユーザーがやることを並べてみると、中国ゲームはメインのゲーム要素以外にも気を配らないといけない部分が多いことが分かります。これはゲームの遊び方の幅が広がる反面、メインへの集中力を落とす可能性もあります。シンプルなゲームに慣れているユーザーにあまりにも多い選択肢を与えてしまうと逆に何をどこまですればいいかストレスになって離脱を促す要素になる場合もあります。

ただ、中国本土のユーザーを基準でゲームのバランスを作り上げる以上、この問題は完璧な解決は難しいので、継続したコミュニケーションを通じてユーザーを学習させるのが大事だと考えます。

一例として、Rejetの 『剣が君』 IPを利用し中国で開発した『剣が刻』は典型的な中国型設計のRPGですが日本リリース時の初動は悪くありませんでした。当時は女性向けゲームの失敗が続く時期だったので、約2億円(推定値)に近い初月の売上はかなりよい成績と評価されました。

注目すべき点は、当時の公式ツイッター運用ですが、リリース前からイラストやキャラクター、世界観の紹介だけでなく、システムについても説明に力を入れていました。

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▲ 動画媒体を使って分かりやすく紹介するのが
メインになった今と比べれば結構原始的かもしれないですが、
当時、様々なシステムと構成要素を細かく分かりやすい文章で
説明していたのが印象的でした。

もちろんゲームの売上実績は日本に馴染みのある歴史物かつRejetのブランドが大きく貢献していると思いますが、少なくとも日本ユーザーに不慣れな構造であることを認識し、これをSNSという手段を利用して事前に伝えようとしていた運営の努力が記憶に残りました。

課題3. ユーザー理解の欠けるプロモーションおよびサービス設計

プロモーション手法が定型化したことで、手段にフォーカスを当てすぎて逆にゲームの良さが伝わらなかったケースもあるように思います。私が特に残念に思うのは『恋とプロデューサー』です。

ゲームプロモーションの究極的な目的はゲームの成功です。
先述したように、事前登録とリリース直後のタイミングは新規ユーザーできるだけ集め、ファンに転換させる最も大事なタイミングで、この時期の成果はゲームそのものの寿命にも大きい影響を及ぼします。

『恋とプロデューサー』は2019年夏、日本リリースを目前にして、オンライン~オフラインにかけて様々なプロモーションを実施します。この時期に実施したプロモーションは雑誌の記事、池袋駅広告、デジタルマーケティングはもちろん、声優による生放送、カラオケコラボ、カフェコラボなど女性向けゲームの界隈では典型的な手法を大規模に取り入れていました。

しかし、プロモーションのHOW以前に、どのユーザーに向けてどうファンに転換させるかに対する検討が足りないと感じました。例えば、まだファン層が薄い状態でコアファンに向けたコラボ系施策だったり、ユーザーへの転換可能性が低いギフトカードの大判振る舞いなど…他のところにリソースを集中させたらより大きい成果が出せたのではと思われる部分が目立ちました。

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▲ コラボカフェは限定グッズやフード類の販売など、
コアファン向けのコンテンツがメインなため、
現場を訪れた方はほとんどが中国版を先にプレイしていたファンでした

また運用面でも、日本版のリリース当時、最もバージョンが進んでいる中国版とは約1年半ほどのギャップがあり、既に作られていたコンテンツが溜まっている状態でしたが、メインストーリーの進行を無視したイベントの実装や課金誘導が激しいイベントを初期に配置するなど、ユーザー経験を考慮していない設計がとても残念でした。

たとえば、ゲームリリースから1週間後に開始された「海辺のバカンス」イベントは当時の季節感を考慮して進められたイベントだと思うのですが、イベントストーリーとメインシナリオの間の空白や課金要素が激しく、ゲームにまだ慣れていない初期ユーザーの離脱を煽る結果となりました。

結局『恋とプロデューサー』の日本版は事前登録は50万を達成したものの、リリース後の激しいユーザー離脱に繋がります。中国で大ヒットした作品だった分、特に日本での歩みを注視していたので、今でも非常に勿体ないという気持ちが残ります。

まとめ

女性向けゲームは他のジャンルに比べファンビジネスに性格が強いです。
ユーザーは世界観・ナラティブへの理解が進むことで、登場キャラクターに共感することで、作品の魅力によりハマっていきます。

私の考えですが、今までの中国の女性向けゲームが日本で振るわなかったのは、単純に文化の差があったからではなく、作品の没入を妨害するハードルを取り除く努力が足りなかったのが大きかったと思っています。決してゲームやコンテンツとしての魅力が劣るからではなく、コンテンツの選択肢が広い日本ユーザーにその魅力を上手にアピールできなかったのではないかと。

2021年以降も中国の女性向けゲームは日本の市場にチャレンジするでしょう。すでにリリースに向けて動いているタイトルもあります。
今後リリースされる女性向けゲームのラインナップを見ると、色んな面で改善が行われているのが伝わります。
ビジュアルやゲーム性、声優陣、制作スタッフなど、じめから海外ユーザーを念頭にいれて制作しているのはもちろん、ローカライズや運用もより繊細になっているように感じています。

先日グローバルCBTを実施したmiHoYoの『未定事件簿』のCBT終了後のアンケート内容を一つ紹介し、締めくくりたいと思います。

質問 : ゲームを進めるにあたり、言葉の意味がよくわからない状況はありましたか?
答え 1 : 語彙、文法ミスがあった
答え 2 : 前後の文章が繋がらなかった
答え 3 : 表現が複雑で読みづらい
※よくある、偶にある、ないの3つから選択

実はこのアンケートを読んでに少し感動しました。
今まで中国女性向けゲームのグローバルサービスが持っている課題の一つを正確に認知し、その解決に向けてどう対策を立てていくかを、制作側が真摯に悩んでいるように受け止められたからです。

今後の女性向けゲームのトレンドがどうなるかはわかりませんが、ゲームのグローバル化が進み、世界のコンテンツと競争しないといけないこのご時世には、こうして海外ユーザーを一つのグループとして定義し、彼らの立場で考え、提供する体験を改善していく努力こそ、制作側が持つべき観点ではないかと思います。

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