弁護士視点からの「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」解説〜第14話

第14話はミョンソクのための肉ククス探しから始まるので、17分から始まる法廷シーンまで法的な話題は出てきません。不正競争防止法に繋がる伏線が出てはいるのですが、自分は初見時には気付いてなかったように思います。

法廷シーンは住職の尋問から。ここまでの法廷シーン、寺院を巡る事実関係として単純に面白いので流して観てしまっていたのですが、そもそもヨンウたちはどういう理屈で不当利得だと主張しているのでしょうか。
不当利得返還請求の要件は「法律上の理由なく」「利得を得た」ことなので、地方道上で徴収された「文化財観覧料」が「法律上の理由なく」支払ったものだと証明する必要があります。要するに、ファンジ寺による「文化財観覧料」の徴収には根拠がなかったと立証しなければなりません。
推測するに原告の主張は、国道上に料金所が設置されており納得してなくとも「文化財観覧料」を支払わなければ道路を通行できないのでやむを得ず支払ったが、「文化財観覧料」を謳うなら実際に寺院を観覧する者のみから徴収すべきであり、単に道路を通行するだけの者から徴収したのは不当であるというものでしょう。
しかし、ここを通行したければ「文化財観覧料」を支払わなければなりませんよと申し入れを受け、渋々ながらもそれを了承して支払い、実際に通行しているのだから、原告と被告の間には有効に契約が成立しており、そこには「法律上の理由」があるようにも見えます。とりあえず勢いで訴状を書き上げて提訴することは出来るにせよ、この事案で不当利得を立証するのはなかなか難しそうです。
しかも被告のファンジ寺は、法律上の形式的要件のみならず、地方道開通時の経緯や「文化財観覧料」が実際に国宝その他文化財保護に活用されていると主張立証しており、裁判所に対する実質的な説得力も加算しています。

第14話と言えば、ミョンソクの元妻ジヌが心配して済州島の病院まで飛んできてくれる場面で少し救われた気がしますよね。でもその直後にヨンウと仕事の話をする場面となり、そのリアルさにまた血反吐を吐く羽目になります。
自分が先の法廷シーンで感じた前述の疑問を、視聴者にも分かるようにミョンソクがヨンウに説明します。

最後の期日でヨンウが、原告は公有財産を利用しただけで文化財を観覧したとは認められないと主張します。要するに、地方道は公有財産であり、ファンジ寺はそこを通行しただけの者から何らかの金銭を徴収する法的権限を有していない、したがって被告ファンジ寺が原告から3000ウォンの「文化財観覧料」を徴収したことには「法律上の理由」がないという主張だと思われます。

ミョンソクたちハンバダの一同がファンジ寺に住職を訪ねます。この点も第12話と同様、気になります。一審判決が出たばかりであり、まだ被告が控訴する可能性があります。つまりファンジ寺はミョンソクたちにとって依然として相手方当事者のままです。自分のクライアントである原告本人と被告代理人弁護士の了承を得ない限り、原告代理人弁護士が被告本人に会いに行くことはありません。事件が継続している以上、代理人弁護士の行動原理は自分のクライアントの利益になるか否か、その一点のみです。ところがこの場面でのミョンソクたちの行動には、クライアントである原告本人の利益になる要素が見えません。あえて言えば被告による控訴を防ぐことですが、その交渉を挑むのではあれば被告代理人弁護士が立ち会うはずです。
ミョンソクが住職に提案したのは、ファンジ寺をこのような状況に追い込んだ政府と戦うことです。これは法的助言であるし、ハンバダの営業活動とも取れます。であれば尚更、一審判決が確定していない段階で相手方代理人弁護士の立ち会いなしに、被告本人に提案することはあり得ません。
ドラマ故ある程度のフィクション要素は許容できますが、弁護士実務の核心的な部分、特に弁護士の思考については実際の実務との類似性をとことん追求し、弁護士倫理上の葛藤を繰り返しテーマにしている本作だからこそ、弁護士倫理上あり得ない場面は、自分には残念に感じられます。他のドラマならそもそもそこまでこだわらないんですけどね。
ただ、最終的に京都の拝観料への課税問題と同じ寺社仏閣と行政との関係に収束していったことは、やはり日韓には共通する課題が多数あるのだろうなと興味深く思いました。

冒頭で触れたように、第14話の最後に不正競争防止法の話が出てきます。不正競争防止法とはその名のとおり、平たく言えば他業者のノウハウをパクるなど不正な商売で儲けるのを禁ずる法律です。民法のような古い法律ならともかく、比較的最近制定された法律が日韓共通していることを当初不思議に感じました。が、よくよく考えると日本の不正競争防止法も国際的な要請に従って制定してきたものなので、韓国がほぼ同じ法律を制定しているのは当たり前かもしれません。

不正競争防止法の概要
経済産業省 知的財産政策室
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/document/chizai_setumeikai_jitsumu/30_text.pdf

ところで本話の裏テーマであった肉グクス、検索すると日本でもグクスを食べられる店は多数ヒットするのですが、第14話ラストで出てくるようなものは見当たりません。このような肉グクスはどこに行けば食べられるのでしょうか?

いいなと思ったら応援しよう!