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クニモトが社会福祉法人に提供する法律相談

 弁護士にアクセスするのは、何か困りごとがあるからでしょう。したがって相談者が知りたいのは「で結局どうしたらいいのか?」ですよね。
 ↓この投稿をもう少し具体化した記事を書こうと思います。

 弁護士は頭の中で様々な法的条件に事実関係をあてはめながら、相談者のお話を聞き取りします。ある程度整理が付いた段階で、法的にはこうなりますよと弁護士なら必ず説明することでしょう。しかし、課題や問題点が整理されることが一番大事なことではあるものの、それだけでは具体的に何をどうすれば良いのか見えてこないことも多い。自分が最も頭をひねりエネルギーを裂くのは、ここから先です。
 例えば、問題行動の多いスタッフの対処に困っているという相談があるとして、労働基準法や労働契約法、高年齢者安定法からすると解雇や雇い止めはなかなか厳しいですねと説明するのは大前提。そこで止まると悩み事は何にも解決しないから、わざわざ弁護士に相談した意味がないわけです。相談者の困りごとをどう克服するかについては個別状況に依るし、労務的なノウハウは文字にすると悪用される危険もあるのでここでは書けません。法的診断を前提にしつつ、これまでの様々な経験を全て投入して、何らかの具体的方針をひねり出します。

 法的診断と具体的方策との間には、必ず距離があります。クライアントの事例は守秘義務の関係で出せないので、自分が理事長を務めている保育園での経験を例示します。今や人手不足は日本の全産業を苛んでいますが、保育園のそれも深刻です。うちの園でも派遣会社に頼ることが常態化しています。派遣されたスタッフを直接雇用契約に切り替える場合、派遣先事業所から派遣会社に対し、いわゆる紹介料のような対価を支払うことが慣例化しています。この紹介料につき、厚労省の「平成27年9月30日施行の改正労働者派遣法に関するQ&A」は、そのQA4で次のように解説しています。

Q4: 雇用安定措置の一つである「派遣先への直接雇用の依頼」を派遣会社に実施してもらったのですが、派遣先からは、派遣会社に職業紹介手数料を支払うことができないので直接雇用できない、と言われています。この場合、派遣先は派遣会社に対し、職業紹介手数料を支払わなければならないのでしょうか。

A4:「派遣先への直接雇用の依頼」は、職業安定法上の職業紹介ではないので、派遣先は同法上の職業紹介の手数料を支払う義務はありません。
また、派遣先は、正当な理由なく、派遣先と派遣労働者の間の雇用契約を実質的に制限するような金銭については、支払う義務はありません。
 「派遣先への直接雇用の依頼」は、派遣会社が労働者派遣法に基づき講じなければならない雇用安定措置の一つであり、派遣労働者の雇用の安定を確保し、派遣先での直接雇用に結びつけることを目的としたものです。これは、職業安定法上の職業紹介ではないので、派遣先は同法上の職業紹介の手数料を支払う義務はありません。
 また、派遣会社と派遣先との間で金銭の授受があることにより、「派遣先への直接雇用の依頼」が不調に終わることは、雇用安定措置の趣旨に反するおそれがあり、問題があります。
 なお、「派遣先への直接雇用の依頼」に際して、派遣会社と派遣先との間で金銭の授受があることなどにより、派遣先と派遣労働者の間の雇用契約を実質的に制限することとなれば、実質的に労働者派遣法第33条第2項に違反することにもなり得ます。

 法的診断としては「派遣スタッフを直接雇用に切り替えるに際し保育園が派遣会社から紹介料を請求されても、それを支払う法的義務はない」ということになります。
 ではこの法的診断どおりに行動することが、はたして当園にとって「正解」でしょうか?國本は理事長として園長に尋ねました。

國本「紹介料の支払いを拒否すれば、その派遣会社との付き合いは切れてしまうでしょう。そうなるとどうなりますか?」
園長「困ります。この派遣会社からの紹介がなければ今後、急に新たなスタッフが必要になったときに補充することができません」

 法的には派遣会社に紹介料を支払う義務はありません。と同時に支払っても違法ではありません。であれば、将来のスタッフ確保のために派遣会社との関係を維持して保育園経営の安定を図るべく紹介料を支払うことが、当園にとっての「正解」になります。
 と、このようにまず法的診断をした上で、相談者から様々な条件状況を聞き取り、共に検討しながら最もベターな(ベストは見つからないことも多い)具体的方策まで辿り着く、あとはやってみてそれからまた相談して修正するという作業を繰り返すのが、クニモト法律事務所が社会福祉法人に提供する法律相談です。

 社会福祉法人法務支援を標榜してこの事務所を開設してから、ちょうど1年が経ちました。社会福祉法人経営者の交流会でも利用者対応についての話題が出ることが多く、自覚的なニーズとしてはそれが最も大きいように感じています。

↑この会合で紹介した國本の次の記事もそこそこ読んでいただけたようです↓

 ただ現在のところ、社会福祉法人からの相談や依頼はその殆どが労務に関することとその他諸々の契約関係についてです。利用者とのトラブルは偶発的なものであるのに対して、労務や事業上の取引をめぐる諸課題は必然的に日々生起するので、客観的にはそちらの方がニーズがあるのかもしれません。

 手前味噌ですが、うちの園長が同業者との会合に行くと、理事長が弁護士であることを羨ましがられるそうです。上記の法律相談同様の作業を法人内でいわば内製しているのだから、現場の責任者である園長たちからすればまあ便利だろうなとは思います。
 自分自身が保育園の理事長になってみて、これだけ日々判断しなければならないことが多いのに他園では法的な知識や支援なしにやっているのはさぞや大変だろうと思い至ったことが、クニモト法律事務所を開設した理由です。その部分を國本に外注することで本業である福祉事業に専念していただくことが、クニモト法律事務所が提供する顧問契約の本旨です。

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