中小事業経営者のためのミニマム法律知識シリーズ2:人を雇うならこれだけは知っておきたい

 労働三法と言えば労働基準法、労働組合法、労働関係調整法のことです。また労働環境を定めている重要な法律と言えば、労働基準法と労働安全衛生法が2大支柱だと思います。しかし本稿では、そういった一般的な内容は官公庁のサイトを参照していただくこととして、國本の経験から中小事業者・中小企業経営者が見落としがちな2点に絞って紹介していきます。

一般的な内容↓

1)労働条件通知書

現在の労働法では、人を雇うとき、正社員であろうがアルバイトだろうが、賃金・労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければなりません。しかしこれをやっていない、そもそもそんなこと知らないという経営者も実は少なくありません。

 労働条件明示義務とその実践としての労働条件通知書は、雇用される側を守ることが元々の制度趣旨ではありますが、経営者の自衛にとっても重要です。
 まず労働条件通知書を作成し交付することで、経営者は違法状態に陥らなくて済みます。
 また、後に従業員とトラブルになって解雇その他何らかの形で仕事を辞めてもらいたいというとき、雇用形態によってその方法が異なってくるところ、われわれ弁護士のところへ相談に来られても、そもそもどういう雇用形態なのか判然としないということが実はよくあります。経営者ご本人は有期雇用ですとおっしゃるが、それを示す証拠がない場合もあります。労働条件通知書をきちんと作成交付していれば、少なくとも雇用形態ははっきりします。少なくとも有期雇用で採用した人に正社員であると主張されることは防げるわけです。

 こちらは有期雇用のものですが、厚労省がウェブサイトで公開している労働条件通知書の雛形です。例えアルバイトひとりであっても、人を雇うのであれば労働条件通知書を作成して本人に渡し、そのコピーを保管しておくということは最低限ルーチンとして、すべての事業者の方に実践して頂きたいのです。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/youshiki_01a.pdf

2)就業規則

 就業規則を作成し労基署に届けなければならないのは「常時10人以上の労働者を使用している事業所」となっています。

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-4.pdf

 しかし、事業がたとえ1〜2人でも人を雇う段階に入ったときは、その時点で就業規則を作成して頂きたいと思います。その趣旨は上記の労働条件通知書と同様です。従業員との間でトラブルが発生し、そのことを弁護士のところへ相談に来られても、職場のルールである就業規則が存在しないため、対処がたいへん難しいことがあるのです。就業規則があれば、それに従って懲戒処分を下すことも出来ます。働くものの権利を保障するための制度である就業規則は、実は経営者を守る機能も実践的には有しているのです。

 では就業規則はどうやって作れば良いのか。厚労省が配布しているモデル就業規則は大変よく出来ており、これをほぼそのまま使っている事業所が多いように思います。

 しかし業種業態によって労働条件は様々なので、やはり厚労省が用意してくれているこちらの就業規則作成支援ツールを利用してみることをお勧めします。

3)社会保険労務士をもっと頼ろう

 とりあえず創業時は上記ツールを使って就業規則を自作しても良いと思います。しかし、労働法規はものすごいスピードで変わっていくので、あっという間に古い就業規則は時代遅れになります。また事業の発展段階に応じて就労形態も変わるので、就業規則の内容が事業内容と全然対応しなくなっているケースも見られます。それが原因で高額の未払残業代請求を受けることもあります。

 したがって就業規則は、いったん作ったらそのままではなく、定期的にチェック&アップデートをすることが必要です。とはいえ、事業運営に時間とエネルギーを注がなければならない経営者がそこまで気を回すのは大変でしょう。そこで、少なくとも給与や社会保険関係などの管理を社会保険労務士に依頼している事業を営んでいる経営者は、プラスアルファの費用を支払って、定期的な就業規則チェック&アップデートを顧問社労士に依頼してみてはどうでしょうか。本格的な労働紛争が生じて、弁護士に弁護士費用を払いつつ、紛争相手にもまとまった金銭を支払うことを考えれば、時間的にも労力的にも金銭的にもその方が安くつくはずだと思うのです。

 もちろん創業時から余裕がある方は、前記の労働条件通知書や就業規則、雇用契約書などありとあらゆる雛形を社労士に作成依頼すれば良いでしょう。

以上


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