中小事業経営者のためのミニマム法律知識シリーズ5:知財活用初歩の初歩
中小事業、中小企業を経営するなら頭の片隅に置いておく程度でいいから最低限これだけは1度は耳に入れておいて欲しい法的情報を発信する本シリーズ、また何か思いつけば再開しますが、とりあえず当初予定していた記事のラストです。
さて今回は知的財産権。正直、苦手な分野です。苦手とはいえ、中小事業者、中小企業を支援することを生業とする弁護士である以上避けては通れませんし、プロの法律家の端くれなので、本シリーズのコンセプトに沿った解説を試みます。
知的財産権制度は知的財産を守るための制度ですが、積極的に活用するに当たっては、おおまかに攻めの知的財産権と守りの知的財産権があるくらいの感覚を持っておくと良いのではないかと考えています。前者は商標、意匠、特許など当事者の申請によって権利が発生する知的財産権で、後者は法律によって当然に権利が発生することになっている著作権と不正競争防止法に基づく各種制度です。まず後者から解説します。
ビジネスを進めるにあたりまず大事なことは、他者の著作権を侵害しないことです。著作権法における「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものですが、とりあえずは他者の創作物は勝手に利用しちゃいけないくらいの感覚を持っておくと良いと思います。
三井不動産の事例は、例え本業が不動産事業であってもアート作品に関与するなら、著作者人格権というものがあって所有者といえども勝手に改変しちゃいけないという程度の知識は最低限必要であることを浮き彫りにしました。事業者は、他者の創作物やアートに関与する場合は、何はなくとも弁護士に相談してみるくらいの実務感覚を持っておいていただきたいところです。
逆に自らの著作権を活用する場面は、文章や映画など創作コンテンツを本業として取り扱う事業でもない限り、権利を侵害されたときでしょう。不正競争防止法の活用を考えるときも同様、他者に自分のビジネスを真似された、いわゆるパクられたことが発覚してからです。
不正競争防止法の概要 経済産業省 知的財産政策室 https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/document/chizai_setumeikai_jitsumu/30_text.pdf
独自の技術やアイデアを活かしてビジネスを健全に進めていくにあたっては、やはり予防に努めたいところです。そこで中小事業者・中小企業経営者には、攻めの知的財産権、申請と登録によって権利が発生する商標・意匠・特許を常に念頭に置いていただきたいのです。
特許の対象は「発明」ですから、権利を取得するという面でも費用面でもハードルが高い面は否めません。しかし中小事業者が独自発明を大企業に安く買い叩かれることもままあるので、いったんは弁護士や弁理士に相談してみて貰いたいものです。
他方、商標権と意匠権は、中小事業者・中小企業にとっても活用しやすく、特許ほどにはハードルも高くないのにあまり活用されていないという印象があります。中小事業者・中小企業はもっともっと商標登録と意匠登録を活用しようというのが、実は本稿の本題です。
商標というのは、平たく言えば商品名やトレードマークを保護する制度です。意匠は工業デザインを保護する制度です。いずれも権利取得のためには申請と登録を要する制度なので、弁理士への依頼が事実上不可欠です。ただ、中小事業者・中小企業が知的財産権をビジネスに活用するに当たっては、これは商標、これは意匠と自己判断できる場合に限らず、このアイデアは何らかの形で権利化できないかなと思ったときには弁理士のコンサルティングを受けるという姿勢を持っておいた方が良いと思います。その登録の可否のみならず、どの制度を使うべきか、そもそもその事業にとって登録することが良いのかどうかや登録できた場合の限界なども教えて貰うことで、より積極的に知的財産制度を自身のビジネスに活用していくことが可能になるはずです。