交渉術の延長線上にある弁護士の問題解決力
先日、その方が以前に依頼していた弁護士では解決に至らず長期化していた事件が終結に至り、依頼者からとても感謝されました。よくよく考えてみると、依頼者が弁護士を私に変更した結果、解決できたという経験が結構あります。しかし、その方たちが依頼していた弁護士より私の方が能力が高かったということでは、必ずしもありません。相性やちょっとした行き違いで信頼関係が崩れてしまったところ、弁護士を変えてリセットしたから結果が出たということの方がむしろ多いでしょう。
従前の弁護士との委任関係を維持したまま、セカンドオピニオンを求めて相談に来られるケースもままあります。私が経験したセカンドオピニオン相談では、従前の弁護士が明らかに方針を間違っていると思ったことは今まで1度もありません。ただ「後医は名医」とはよく言ったもので、後発弁護士として相談者の話を聞いていると、その方が依頼している弁護士に不満や不信感を抱いている理由やポイントが分かるので、何をどのようにいま依頼している弁護士に伝えれば良いかをアドバイスしています。それでもなお従前の弁護士との契約を解消して来られた方はいないので、私のセカンドオピニオン相談におけるアドバイスはなかなか的確なのではないかと自負しております。
従前の弁護士との委任関係を既に解消してから来られた方の場合は、私がその事件を引き継ぐことになります。私が新たな代理人となったことで従前と方針が大きく変わるということはあまりありません。ただ、以前の交渉シリーズに書いたように、私は受任当初から最終段階に至るまで依頼者とゴールの擦り合わせる作業を明示的に行うので、そのやり方が依頼者の納得を得られやすい面はあるかもしれません。また、依頼者の耳に痛いことも遠回しにせず率直に伝えるのが私のスタイルなので、初回相談時にそれを実体験してなお私に依頼をして来られた方だから、相互の協働関係が上手く働いたということはあるかと思います。
1度だけ、従前の弁護士とは大きく方針変更したことで上手く行った経験があります。私は依頼者に、相手からの攻撃には一切反撃しない、違うことには違うと最低限の反論はするけど、こちらからは一切攻撃しないで防御に徹するという極端な方針を提案しました。その訴訟は長期に渡りましたが、依頼者は最後までよく耐えてくれ、受任当初に設定したゴールを達成することが出来ました。
このケースも、当初の弁護士の方針が間違っていたわけではありません。その時点ではその方針が正しかったのです。ただ泥沼の第1ラウンドが終結し、その依頼者が私の元を訪れた第2ラウンド開始時点では局面が変わっていたので、私の上記方針が「正しい」方針になっていたのです。ゴールを設定し、それを依頼者と共有する方法については、以前の記事に書いた常日頃やっているプロセスを踏襲しただけです。とはいえ、ここまで極端な方針を提案できたのは、人並み外れて多数の案件を扱う事務所で勤務弁護士時代を過ごし、踏んできた場数が非常に多かったからではないかという気がしています。
弁護士の思考パターンには専門家として外してはいけない基本があり、弁護士が異なれば方針が全く違うということは専門職としてあってはならないと私は考えています。医療に標準治療があるのと同じです。しかし基本以外のところでは弁護士の人生経験や個性が出る、つまりこの仕事の最もクリエイティブなところなので、そこで「國本だからこそ」と言われる仕事をやってみせて、ほかの弁護士との差別化を図っていきたいと常々考えています。
なお私は、交渉術と格闘技はよく似ていると考えています。技術を知らないと敵愾心や防衛本能に突き動かされて、真正面から力一杯やり返す一辺倒になってしまう。ときにはやり過ごす、相手の攻撃を受け流すことが有効なこともありますし、その技術を知っているだけで見える世界が変わります。私は柔道・柔術に関しては永遠の素人ですが、こと交渉術に関してはプロの現場で20年近く場数を踏んで来ているので、この特殊能力を多くの人に上手く活用していただくことに弁護士としてのアイデンティティを持っています。
弁護士 國本依伸