多様な人々がそれぞれの喜びを感じられる労働と余暇を実現する社会について考える in Berlin
ここ数年、日本でも多様社会の構築ということが多く叫ばれてきている中でタイトルの件がよく頭に浮かぶ。それはそういう社会の実現こそが経済成長と同じくらい日本の人々にとって命綱であるともう十何年感じてきて、最近ベルリンでダンス関係の仕事を転々とやり始めたり、ドイツの地方都市開発の本からヒントのようなものをいただいたからだと思われる。
ちなみにその著書の主な主張は、ドイツ地方社会が充実し魅力を発揮しているのはVerein(フェアアイン)の功績によるものが相当に大きいということ。
端的に言えば、市民力をつけ、それを発揮させ、それを他者に波及させるシステム構築と個人の態度醸成がカギとなります。それを担う主体は民間企業ではなく、日本でいうNPO法人、ドイツでいうVerein(フェアアイン)。
今私はベルリンでダンスによる教育文化事業を行う2つのフェアアインで仕事を始めており、その中でこういった組織がどのように機能しているのかを内部から見知ることができています。今回は私の個人的経験に基づいてつらつらと書いてみます。
まず最初に、私が働くコンテンポラリーダンスのフェアアインのご紹介
<活動事例>
…幼稚園・小中学校・高校の子供たちを対象にしたダンスワークショップや公演企画・開催(単発だったり数か月スパンだったり)
…with 移民の子供たち (多くはアラブ系諸国からのムスリム)
…with 自閉症児童や車いすなど障がい児童や障がいのある大人
…with 少年院の子供たち
…with 高齢者、認知症患者
などなど
サラっと見ただけでも、どれだけ多様な人々にコミットしているかがわかるかと思います。メインターゲットは子どもと社会的マイノリティ。ちなみに私は現状高齢者&認知症担当みたいになっています。そもそも私自身振付家として高齢者の身体表現性に強い興味があることと、ドイツでも高齢者ダンスをコンテンポラリーの手法でやっている人が非常ーーーーに少ないらしく、1回高齢者とダンスシアターをやっただけでラジオライターからインタビュー依頼がきてしまうくらい開拓余地ありまくる領域です。
私的に別次元を感じたのは、そのフェアアインがハレという地方ミドル都市のオペラハウスで行った、ハレ市民100人と半年間リハを重ねた公演。これは結構衝撃でした。作品もすごくおしゃれでアーティスティックな仕上がりで、一般庶民向けのプロジェクトでここまでやるかという感じ。その参加者とその家族や友人知人含め、自分が住む町と人の魅力や絆を強化したであろうことは言うまでもありません。
ちなみにダンス以外のフェアアインといえば、余暇のスポーツが最も多くてその他歴史系、国際交流系、私が実際に知るものでは日本が好きなドイツ人が集まり、セミナーや講演会、パフォーマンスや展示を企画する日独協会もフェアアイン。友人のフランスママが仕事帰りに通うバドミントンクラブもフェアアイン。あれもこれもフェアアインだったんですねというくらい実は生活に溢れていたことを最近知った。
このことからもわかるように、フェアアインは、職種も年齢も人種も関係なく、同じ趣味ややりたいことを持った人同士が集まり、損得勘定もなく垣根なく交流&活動ができるということが最大の存在意義なのです。多様社会の地盤を支えているのが、市民による市民のためのフェアアインという構図。
どんな人がどんな風に働いてる?
代表+数名のコア職員+パートタイムでできるときにできることをやるよ要員数人(私はこれ)。代表職員の給料は残念ながら不明ですが、例えば会員数も多く歴史も長い上記の日独協会は恒常的にインターンを雇用している。財政状況は団体それぞれ、会費や寄付や助成金の額次第なのだろう。ただ私が見る3事例においては、代表3名はその事業しか基本していない。
ちなみに私が講師兼アシスタントとしてワークショップなどに参加する場合は、法律で報酬が決まっていて多少の前後はあれど基本時給換算で30ユーロ(約3800円)ほど。メイン講師はもっと高いのかもしれないけれど、同一労働同一賃金なので案外同じな可能性はかなりある。(こちらでは20代後半でも労働の種類が同じなら40代後半と同じ給料もらっているので結構カルチャーショックを受ける。別の話ですが日本は賃金安すぎます…。)
今はもろもろ予定していたプロジェクトがコロナ禍でキャンセルと延期の嵐に追い込まれているとはいえ、通常だと私が見る限り年間ほぼ休みなく稼働しています。となると若いダンサーにとっては貴重な収入になるわけです。(ベルリンは最近は家賃があがってきたけれど、10万円あれば結構普通に暮らせる。)
日本のNPOとドイツのフェアアインの数
いろいろ法律も団体要件も違うだろうから単純比較できないとはいえ、ざっくり統計を見ると日本はNPO法人登録数51000団体で、ドイツは50万。単純計算で10倍。ちなみに人口は日本の方が4000万人くらい多い。
ちなみに私の母親も、地元で不登校児童を対象としたNPO法人を10年以上やっていて、ようやく最近市から助成金がおりたようですがそれまではほとんどボランティア状態だったようです。
お金はどこからやってくるか?
ここが最も気になるところですが、基本収入は会員からの会費と寄付。多分これは日本も同じでしょう。日本と大きく異なりそうだと感じているのは補助金の充実度で、その出所がものすごく多彩。国はもちろん、市、自治区、財団法人、民間企業、基金団体など、調べきれないほどある。文化系プロジェクトだと、30~40万円くらいから大きいプロジェクトは数百万まで、幅も広い。
ちなみに日本も探すと意外とあったりする。ただ一点ドイツと大きな差を感じるのは民間企業による補助金で、ダンス分野でいえばコンテが隆盛だった2000年初頭~2010年頃までは企業メセナやCSRという言葉が流行って私もコンテンポラリーダンスの世界に夢を見ることができた。トヨタが冠で行っていた振付家コンペや、私もお世話になったJCDNはNPO法人として非常にチャレンジングな活動をしていた。しかし2016年頃からトヨタのコンペは打ち切り、JCDNがやっていた全国ツアー事業も、文化庁からではあるが補助金がおりなくなり継続できなくなったと聞いた。私が今の東京で20歳の若いダンサーだったら、コロナがなくともダンスの世界を目指そうとは思えなかったかもしれない。当時私が救われた多様性の光の一つが東京から失われつつあることを寂しく感じる。
ドイツの話に戻ると、私が所属するフェアアインでは、常に仕事先となるパートナー団体なり学校なり施設を自分たちで発掘する。代表や私含めその他職員たちが日々何をしているかといえば、毎月のようにこういった補助金申請のリサーチと書類作成をしているわけです。もちろんその前段階にはコラボレーションのパートナー探し、企画提案、合意形成のプロセスがあり、それができて初めて書類作成に着手できる流れ。
結構とんでもない仕事量とエネルギーが必要で、最初そんなに簡単に助成が下りるのか的な疑い深い目で見ていたところ、意外とあれやこれやと通っているためあちこちでそういったプロジェクトが遂行されている状況です。
結局、こちらも補助金なしでは回らないということです。補助金が必要とか言うと、特にダンスなんて特殊分野だと、好きでやってんだから自分の金でやれ的な意見が必ずや出てくる日本ではありますが、そういった団体が社会の多様性を担保しているのだという社会的共通見解が必須となります。でないと出す方も出しにくくなるというものです。
いろいろ書きましたが、多様性の実現には補助金と市民の共通認識と彼らの多大な熱意と同レベルのエネルギーが必要であるという話です。
まとめ
私のたった1年半ほどのフェアアイン経験での話でまとまりなかったと思うのですが、私は日本社会がこの長期的な閉塞感をいかに打破できるかという点において、こういったNPO団体により多くの資金が回り、まずは副業でもいいから生きがいとやりがいをもって働ける、またはそういう仲間と出会える場を増やすことが非常に大きな鍵だと思うわけです。
そしてそれは政府や企業のトップの判断だけにかかっているのではなく、私たち個人個人の意識改革も大きな一助になるはずです。
大企業だからとか権威ある場だとか有名だからとか、クリック数が多いとかフォロワーが多いとか年収1000万とか金儲けで成功しているとか、そういうところで評価をくだす価値基準から一旦離れて、自分のアンテナが反応することに真剣に向き合ってみること、数人でもいいからそれを共有できる仲間と出会い語り合うこと、それだけでも本当に尊い一歩であり、日本社会に潤いをもたらす一滴の雫だと信じています。そういった細かい網の目のようなコミュニティを用意するのが、きっとNPOやフェアアインの役割なのです。
メディア媒体がそういう活動をどんどん取り上げることも必要だと思います。情熱大陸に出る人だけがヒーローではなく、いろんなところでいいエネルギーを発している人を紹介すること。そういう人たちを応援し合うこと。
多様社会の実現は、そういうローカルに散在する多くの見えない人々によって実現されるものだと思う。AIやデジタルテックによる多様性実現は日本の経済や社会にとってもちろんプラスになるだろうけれど、地に足のついた幸せにとってプラスになるのかは私にはまだわからない。コロナで人と人の交流がデジタルに移行し、2022年頃私たちが、世界の国々が、どういう判断をくだすのかにとても興味がある。
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