ユネスコ国際ダンスカウンシルの年次総会@Paris
去る12月13日、ドイツの隣国フランスはパリにて、表題の会に参加してきました。
いろいろと謎が多いというか、私自身20年近くダンスの世界にいる割にひとつも名前も話も耳にすることのなかった組織なので一体全体どんなものか、お隣だし25年ぶりのパリだし行ってみるか!ということでふらりと参加してみました。
多分皆さんもほとんど知らない方が多いのではと推測しますので、私の経験した範囲内でご報告できたらと思い記事にしてみます。
1. 総会前の事前情報
正式名称International Dance Council(以下CID)。パリに本局をおくユネスコ管轄のダンスの国際組織。全世界200ヵ国以上、数万人のメンバーからなるらしい。
運営予算は純粋に会費のみ、CID自体は総会以外は事務仕事のみで企画などはしない。→じゃあ一体何のための組織なの!?というのがパリ入り前の最大の疑問。
私がメンバーになったのは2020年の夏。それ以来ほぼ毎月セミナーやイベントのお知らせがくる。コロナでオンライン企画が多いけど多忙でまだ一度も参加できておらず...。
ちなみに先ほどCID自体は企画しないと書きましたが、各地にセクションがあり、そのセクションが企画をあげる仕組みということが総会で判明しました。
2. 総会
コロナ禍にも関わらず、世界各地から70名近くの参加者。もちろん多くがヨーロッパで、アフリカやインドからが数人、インドネシアが1名、東アジア圏内からは私一人でした。(私は書面上はドイツ登録だけど。) これでもこのオミクロン拡大期の会合としては奇跡的とも言えるインターナショナル感です。
この総会は事前メールでも官僚的で事務的な会合だと聞いていたのですが、意外にもメンバーによる自己紹介プレゼンが血の通った感じ。物見遊山な私でしたが突如東アジア代表的に名指しされ、インプロ英語で自分の活動を説明することに...。3行でいつでもどこでも自分のやってること言えるようにしとかないとやっぱりダメですね...。
各地で様々な形でダンスと関わる人たちの話を聞きながら、この組織のメンバーは自らダンサーや振付家でありながら、どちらかというと教育や企画運営のオーガナイザー、調査研究などのアカデミックな側面で重点的に関わる人々が多そうだとわかりました。
実際夜のオフ会に行くと、多くの人が修士や博士をやりながら自分の団体やスクール運営をするタフな人が多い印象でした。
3.オフ会
3夜連続でオフ会があり、より密に一人一人のメンバーと話ができる時間です。私は2回参加しました。
相当いろんな国の方々と話せたのだけど、中でも特に印象的だったのは同じドイツからの若い女性。(ベルリン在住というだけでドイツ人と同郷感溢れて盛り上がる不思議w。) 彼女は4ヵ国語操る才女で、元々バレエダンサーだったけれど政府の文化政策を変革したい、そのためにCIDでインターンをし、修士論文を書いていると熱い思いを語り尽くしてくれてブラボーだった。
芸術貧困国日本からきた私にとってはドイツの文化政策なんて手本にもならない次元だと思うけど、当然現地人にとってはそれがスタンダード。課題を見つけた若者がそれを改善しようと奮闘するって、国の健全な未来を保証するなあ。
また運営トップは日本の組織と同様70前後のおじいさまおばあさまがほとんどだったのだけど、オフ会に来ていた人たちがほぼ私世代の30ー40代だったのが印象的だった。
もちろんパンデミック中とのこともあるけれど、運営が高齢でも若く新しいメンバーを増やそうという強い意思みたいなものを感じた。
4.まとめ
今回の総会とオフ会を通して、上記のドイツ女性だけじゃなくここで出会った人たちの多くが多分30歳以上で、現役バリバリは落ち着いたけれど様々な方向性でダンスを発展、継承していこうとする強い思いと行動力、知性が伴った人たちなのだと理解できました。
ヨーロッパに来てから常々思うのは、ダンスという分野はどの国においても芸術分野の中でも最下位に位置付けされるのだということです。
日本から見てドイツやフランスの芝は青々と見えるでしょうし実際青いですが、現地の芸術全般から見たら重要性もお金まわりもだいぶ低いのは否めない。州立劇場所属ダンサーは月給出るけども現地スタンダードで見るとかなり少ない上に給与も特にあがらない。
この原因といえばドイツの場合だと、ひとつはダンスの抽象性(=わかりにくい)、2つめはポスト数に対しやりたい人が多すぎる(=ヨーロッパだとダンサーとして素晴らしければ言語ができなくとも採用されるので世界中からダンサーがひしめくほどやってくる)、3つめは現地語ができないと賃金交渉などで不利になる、などかと思います。
もちろんアフリカや東南アジアなどはまったく違う状況だとは思います。ただ、別段企画や仕事といった現実的な果実を一切もたらさないCIDという組織の存在意義を考えたときに、ダンスという職業としてはこの上なく不安定なものを好きという思いだけで人生の全てをかけて向き合うことを選んだ人種も言語も異なる私たちが、CIDのメンバーであるというたったひとつの共通項だけで国を飛び越え繋がりあい、助け合うことができる緩い紐帯のようなものなのだと理解しました。
トランプ、ブレグジットときてのこのパンデミックで、世界情勢が内向き閉鎖的分断的傾向が続くであろう2020年代、こういった組織の存在はプラクティカルな役割を越えた思想的大義を帯びるのでしょう。
このような不可視的で脆弱だけれど人類にとって根元的なカルチャーを守ることがユネスコという国際機関の意義なんだなあと改めて。
というわけでこの分断時代にできるだけ逆行と逸脱を図る為にも、しばらくはメンバーを続けようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!